第三話:変わる世界〜おかしな夜空〜
僕はあいが徐々に消えていく夢を見た。あい以外にも草や樹や星や水すらも僕の周りから消えていく夢だった。
夢の中であいは瞳に涙を浮かばせ、静かに笑って『また会おうね……』と言って少しずつ光になって消えていった。僕はあいに手を伸ばしたけどそこにあいはもういなくて、暗闇だけがただあった。なんの音も風も…何処から何処が暗闇なのかわからないぐらい闇が全てになった。僕はあいを叫んでうずくまった……そんな夢だった。
僕が夢から覚めると目には涙が溜っていた。目には蜃気楼のような景色が映った。僕はふと胸が掴まれるようにあいのことが気になって隣の椅子を見た。そこにはあいが机に伏しながらすやすや寝ていた。僕は深く溜め息をついて、着ていたコートをあいに被せた。
僕はしばらく下の土を見ながら見た夢について考えていた。とてつもなく悲しい夢だった。考えるだけで悲しい気持ちが冷たい津波のように心を奪っていった。もがき苦しくなった。呼吸がうまくできなかった。
なぜあんな夢を見たのか…僕にはわからなかった。僕はそれをかんがえるのはやめて夜空を見上げた。
その瞬間、夜空に…いや、世界に何が起きたのか解らなかった……
降るような、おかしなぐらいな量の星が散りばめられていた。
まるで映画で見るような星空があった。それは天の川のように見えた。まるで宇宙の全ての星が地球の夜空のかごに敷きつめられたかかのようになっていた。
僕はあいを急いで起こした。あいは『う〜ん…何?』と腕を伸ばしながらこっちを見た。僕はあいの顏を見ながら上を指差した。するとあいは『な……なに?これ…』と呟いた。僕は『わ、わからない』とだけ言って夜空を見ていた。
あいはしばらく黙っていたが『綺麗ね……私、生まれて初めてこんな綺麗な夜空見た!』とだけ言った。
『そんなことより…この星の数はなんだ?一体何が…?』僕は宙に向けて喋った。あいは黙ってこの星空に見とれていた。僕は星空を見ながら体の震えが止まらなかった。不安と恐怖で頭がいっぱいになった。この星空は確かに美しい、が、僕には奇麗すぎて吐気がしてきた。徐々に感覚が狂ってきてなにかぽっかり空いてしまったようになった。
マグカップに残ったコーヒーには星空が浮かんでいた。星の光は僕たちの体を包んで照らしていた。奇妙なくらい明るく……
世界に一体なにが……
しかし、僕たちはまたすぐに睡魔に襲われた。
星空は気になるがしかし、この睡魔はおかしなぐらい体を動かなくさせるものだったし、庭で寝てしまったら今度こそ風邪をひいてしまうので体に鞭を打って寝室に向かった。……それに寝てしまえば明日から普通の夜空に戻ると思った。思いたかった。あのまばゆい光の夜空は綺麗だったけど奇麗だった。その不思議な夜空を捨てるためにも睡魔に逆らうべきではなかった。僕たちはベッドに入って静かに目を閉じた。
あいが寝る前に呟いた『きれいな星空をあなたと見れてよかった……』という言葉が不思議に耳に焼きついた。
もう僕の愛した夜空は還ってこなかった…………