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000-復讐

 お気入り登録してくれた方はすみません。やはり連載で書きたいと思い、「殺戮の天使」から「殺戮の天使は星と消える」に題名を変えて続きを書いていこうと思います。

男が男に酒を注ぐ光景。若く整った顔立ちの男が中年男性に愛想を振り撒く光景。端から見れば接待に見えなくもないが、妖しく輝くミラーボールやそびえ立ったシャンパンタワーがその可能性を潰している。

「斎くん、今日も可愛いね」

「はは、どーも。円山さんの方がカッコイイし。男の俺でも見とれちゃうぐらいです」

 少しわざとらしすぎたかと神谷斎は思った。

 斎は比較的仲の良い同僚が髪の薄れた小太りな男性に肩を抱かれて店を出ていくのを見て、身震いがした。行き先は言うまでもない。もともとホテル街の近くに立てられた店だ。

 ここは女性不信になった男性やニューハーフが来るバー、俗に言うゲイバーという種類のものである。

 隣には最近斎を指名し続けている36歳の公務員が座っていて、身体を舐めまわすように見てくる視線に気付かない振りをするのが辛い。男は斎の赤みかかった栗毛の中に手を突っ込んだまま、一向に抜こうとする気配を見せない。

 気持ちが悪い。

「なあ斎くん、今日こそいいだろ。5万でどうだ?」

「……何のこと?」

 こういう職業についているのだ。主語が欠けてるくらいで意味がわからないはずがないのだが。斎の中では認めたくない気持ちが強い。男に身体を求められて、拒否できないという事実に。

「お前もわかってるんだろ? そろそろ身体を寄越せって言ってんの」

 男の手が斎の髪を離れ、そのまま頬へ移動する。気持ち悪い。肌に蕁麻疹は出ていないだろうか。今すぐにでも殴り飛ばしたい衝動に駆られるのを必死で我慢するのは相当忍耐がいる。

「円山さんはせっかちですねぇ」

 すぐに身体を求めてきたこの男。粘りに粘って拒否し続けたが、そろそろ潮時らしい。計画を実行するときがきた。斎の人生全てをかけた復讐劇──。

 息を荒くした男は先程の同僚同様に斎の肩を抱き寄せて、店の玄関を出る。

 夜風が冷たかった。音一つしない静寂の中、自分がこれからしようとしている行為を思うと頭が痛くなる。

 何でこんな真夜中に男に抱かれなければならないのか。

「円山さん、ここの公園とかでどう?」

 ホテル街の端に公共トイレしかない公園がある。広いと言えるほどでもないが軽くサッカーが出来るくらい面積があるのに、日中でさえ人気はない。それは1ヶ月前ほどにこの公園で女子高生レイプ事件があったからだ。それからこの事件に注目した若者によってレイプをする滑降の場になった。人が通らないのも納得出来る。

「へえ、野外プレイ好きなんだ」

「まあね。ところで円山サン──」

 相変わらず肩を抱かれたまま、公園に足を踏み入れる。足から痺れが走るような感覚、まっすぐトイレに向かう足。

 ああ、いよいよか。斎のなかで何かが弾ける。

「──斎って名前珍しいと思わないっスか? 今まであったことないでしょ? 女みたいな名前だし」

 トイレに入る直前、斎は男に聞いた。

 男は斎が何故そんな質問をしたのかという疑問さえ持たなかったようだが、早く行為をしたいらしくあまり興味がなさそうに見える。しかし少し黙り考え込むと、思い出したと口にした。

「小さい頃に斎ってヤツいた気がする。そんとき孤児院にいたんだけど、斎くんみたいに可愛い双子がいて、みんなでそいつら犯しまくった覚えがある。最初は痛がるのにさ、何回もやってくうちにいい声あげるようになってさ。」

「へえ、で、双子のその後は?」

 知らないと男は興味なさそうに言った。斎の肩を抱く力が強くなる。早く行為をしたいというサイン。そんなサインをまるで無視するように斎は俯き黙ったままだった。

「斎くん? 早く、トイレに入るよ」

 クックックと斎の口から笑いが漏れる。それは自分自身をあざ笑うかのような嘲笑にも聞こえる。

「斎くん……?」

「あっはは……そうだよなぁ! 双子のその後なんて知らねぇよな! お前にとってはどうでもいいことだよなあッ!」


 映画を見ているかのように鮮明に蘇る記憶。どんなに忘れようとしても頭から離れない男たちの笑い声。自分の身体をまさぐる沢山の手の感触。心が悲鳴をあげていた、あの頃。

 消灯時間が過ぎ、先生たちが自室に帰る音がすると決まって集団で部屋に来た。

「杏ちゃん! 杏ちゃんだけはやめてくれ!」

 虚しく叫び声だけが響き、軋むベットに放られる。そこから人形になった。

「ヒトリデヨガッチャッテカワイイヨナ」

「モットヒドクシテヤロウゼ」

 何を言っているかもわからない。聞こえない。自分は人形だからと言い聞かせる。

 耐えて、耐えて。解放されるのは決まって朝。後処理もせず男たちはそそくさと部屋を後にし、ベットに放られた人形は永遠に人間に戻れなかった。

 隣の部屋で杏ちゃんが泣き叫ぶ声も覚えている。先生たちがこの行為を知ってるのに見てみぬフリをしていたのも知っていた。


「よく覚えてたな。俺はあの時お前らに犯された双子だよ。お前らのせいで杏ちゃんは……杏ちゃんは──」

 一歩ずつ歩み寄る斎は男を障害者用のトイレの奥へと追い詰める。男は震えていた。

「──なあ、死んでくれる?」

 ナイフを握る斎は笑っていた。





「──男性が遺体で公衆トイレで発見された。遺体は100ヶ所以上も刃物で突き刺されていて各部分が切断されてたかぁ。世の中物騒だね、お兄ちゃん」

 皿洗いをしながらテレビから流れてくるニュースに耳を傾ける。水が流れる音と食器のぶつかり合う音でとぎれとぎれに聞こえるニュースだが、耳に入る単語ひとつひとつが酷いワードばかりだ。男性性器が切断されてるだとか、顔は切り傷で認知できないだとか。しかも事件現場はここから近い公園。

 あの公園付近は近付かないよいにしよう、と神谷杏は思った。

「ねぇ、お兄ちゃん聞いてる?」

「聞いてるよ。っていうか蹴ってるから」

 自分の足元にダンボールがあると思ってずっと蹴っていたが、下を向くと紛れも無い自分の兄、神谷斎だった。

 いつもと同じ。朝起きるとどこで何をしているのかは知らないが、ぐったりした兄がいる。いつか帰ってこない日が来るんじゃないかという不安に駆られるのは心配しすぎなのだろうか。

「ごめん、ダンボールだと思ってた。なんでそんな所にいるのよ」

 仕事で疲れていたと苦笑する斎は寝返りをうつように仰向けになる。17年間一緒だが、いつ見ても女殺しの顔付きだ。二卵性双生児なのに自分より精悍に見える斎。それでいて朗らかで社交的な性格で誰もを魅了する。自分とは大違いだ。根暗で他人と接するのを拒む自分とは。

「杏ちゃん?」

「あはは、なんでもない。それよりご飯作っておいたから食べて。私はもう学校に行くから。お兄ちゃん、無理しないでね」

「大丈夫。今日は夕方には帰ってこれそうだし。いってらっしゃい」


妹のために復讐するお兄ちゃんって素敵すぎるっていうか萌えだと思うんです。

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