身代わりと入れ替えられて捨てられたので彼らの後悔と泣き言を見たい
ブロックルラルク公爵家は代々優秀な当主を輩出しており、国でもかなり重要なポストとなれば用心するような人生を歩むのが通例。
決まりの一つに影武者というものがある。子供たちが小さな頃から命の危険に晒される前提なので通例があり、それをなんとか守りたいと先祖が編み出した自衛の証だった。
公爵家に子が生まれた時から二人を育て、片方には影武者としての教養と令嬢としての教養を与えて、令嬢には令嬢としての教養を与え、愛する家族として愛し合う普通の教育がなされている。
片方の赤ん坊は当然似てないのでどうやって顔を同じにするか、となるだろう。まず魔法使いに整形魔法をかけさせるというものだが、非人道的なので将来的に影武者となる方の意思確認を行い、執り行われる。
代々そうして公爵家は安全に繁栄してきた。公爵家の長女も例に漏れず影武者を付けられたので、名前は本当は二つあるということで、片割れの名前を知ってから呼ぶようにしたけれど、影武者は同じ名前で主人は呼ぶようにと徹底的に教え込まれた。
いざというときになったら、本当の名前を呼んでしまうと水の泡になるから、とのこと。そんなわけでポリアナは影武者と双子のように育っていくことになる。
良いのか悪いのか、その明暗はのちに判明することになるのだろう。今はそんなことを知らず純粋に育っていく、純朴な幼女に大して片方の澱んだ瞳を知るものは誰一人いない。
知っては処分されるか元いた孤児院に戻されるので露見することないが。転機が訪れたのは領地で流行った風邪を患ったとき。
ポリアナはコホコホと咳を繰り返す。良くも悪くも貴族の次女ではあるが、長男よりは優先されることないし、長女よりも利用価値は半減のスペア扱いとなる。
そんな次女から風邪を移されては何が起こるかわからない上に、空気の良いところで療養するようにとの父親の、当主の気遣いが馬車を走らせた。
カタカタとなる馬車の中に母親の姿はない。大切な王妃との茶会もある上に王妃に風邪をうつすなど豪語道断だと、一緒に乗れないのよと優しく微笑む。
貴族としての仕事の大切さも教えられているから、共に来て欲しいと我儘は言えない。そこで言えていれば、母親が共に来ていれば長年にわたる悲劇的な事件は起きなかったかもしれない。
少なくとも母親の目がある場合の、悲劇は短かったかもしれないし、意味がなかったかもしれない。今となっては誰にもわからないだろう。母親は特別に、次女に目を向けていたわけではないのだ。
目を離した隙に起きていたことは本人も相手もよくわかっていただろうなと思う。二人が思うのなら、悲劇は文字通り必ず起こったので何度もタイムリープをしても同じ結果になるだろうなと、片割れは仄暗い気持ちになった。
そうして、療養を始めたポリアナはコホコホとなる咳をする。影武者の彼女が背中を摩る。もっといい薬があると、持ってきてくれた影武者にありがとうを言いながら飲み込む。
そうすると風邪はよくなったが、今度は声変わりのように声の質が少しずつ変化していき、半年間の間に微妙に変わったせいで変化を知ることは本人もない。
声なんて所詮は本人が意識せずに使うものなので、変わったかどうかなどなかなかわからない。
なにか、声のわかるものがあるのならまだしも、そんなものは存在しないので気づかないまま声は変わる。次に変化したのは髪色だった。
影武者よりも色素が濃く出たのだ。公爵家は微妙に家族内の髪色の濃さや薄さが違うので、特に驚くことはない。影武者の髪は依然として母親と同じ色をしていて、彼女を見ると母を思い出して癒されていた。
癒しを感じる言葉や視線さえ、相手を不快にしていることに気づけなかったのは、小さかったのでやむを得ないことだ。年齢に合わない恨みを持つ幼女も大概だと思うけど。
「お母様と同じ色……」
「うふふ、ポリアナ様は本当にこの髪の色が好きですね」
影武者は嬉しそうに笑う。今思うと言われるたびに不愉快感を強く感じたのだろうか。もうわからないけれど、自分ならと考えてみれば嫌かもしれないと思う。もしかしたら、名前を呼ぶのも嫌だったんじゃないかなと思う。
よく考えなくても、途中で今の生活を手放す選択肢なんて余程、自立心が強くないと人は選ばないのではないかと、そんな意味のない予測を立てる。本当に意味がない。
ポリアナはのんびりと、悪く言えば放置するように暮らした。手紙を送るが十回送って一回ほどこれば良い方だ。それでも健気に送った手紙は届いていないのか、読まれていないのか、思っていたような内容ではない。
何度も送って、来なかった日は影武者と慰め合った。慰め合うと言うことは、相手と自分は同じ気持ちだと思っているから。
「治りましたよ」
「本当!?」
影武者から完治を告げられた日は、漸く願いが叶ったと喜ぶばかりで、早く家族に会いたいと望んだ。影武者も支えてくれたのだから、装いは双子のようにそっくりとなり、さらに嬉しくなった。
家に帰る馬車で何度も何度も、見た目を整えた。大人らしくなっているから驚かれるかもしれないと、思わずクスクス笑った。ポリアナをぎゅっと抱きしめて、寂しかったけど一つ大人になったから平気だった、けど愛していたし忘れたことなんてなかったと、しっかり伝えるのだ。
こうして、長い時間の果てに帰還は叶った。馬車が緩やかになった。とうとう着いたのだ。場所はあまり覚えていないけれど、匂いや屋敷の形は覚えているから。
カタンと一度馬車が止まる。流行る気持ちを抑えて深呼吸していると隣にいる子が、先に帰ってきたことを知らせてくると笑みを見せた。
自分が先に行きたいとも言えず、もじもじと服を握ってこくんと頷く。いい子だねと頭を撫でられて、頷くとあの子は外へ出た。足音が遠ざかるたびに、母や父への距離が近くなることに胸が弾けそうなくらい緊張する。
ドキドキ、ドキドキ。胸を抑えて、それから三十分以上経過しただろうか。急に馬車の扉が開いて、怖い男の人がいきなりポリアナの腕をグッと掴む。
「痛いっ!」
目を瞑っても手を緩められなくて、馬車から無理矢理落ちるように降ろされる。新しく新調した服が汚れてしまう。
痛みと怖さと混乱に涙が浮かぶ。痛いと、離してを交互に投げかけたけれど、屋敷に入ってもずっとずっと腕を掴まれるまま。
このままでは腕が取れてしまう。それくらい痛くて叫び続けた。
助けて、助けてと言っても使用人たちは遠巻きに見るだけで、なぜだか酷く冷たい目で皆見てくる。どうしてと、この家の子供なのにと手を伸ばすが誰もが穢らわしいという瞳でそっぽを向く。
引きずられる状態で連れてこられたのは、大きな部屋。そこには、待ち焦がれた家族たちが揃っていた。談話室だ。覚えている。ここで姉や兄に髪を結ってもらったりしたのだ。そこで見た光景は、今にも殺したいと言わんばかりの殺意に満ちた複数の目。
「ひ、な、なに?」
辺りをひたすら見て、皆を見つめることしかできなかった。未だ乱暴な大人に腕を離してもらえないから。痛みにうめいていると、父がコツコツとテーブルを小指で何度も叩く。なにか怒っているみたいだけど、なにもしてないからポリアナは怒られる対象ではない。
「お母様、お父様、お姉様……おにいさ」
「うるさい」
「っえ、え、あ」
助けてもらいたくて順番に見ていただけなのに、全ての人間たち、家族たちは怒りに支配された顔をしていて何かに怒っていた。
正直、何に怒っているのかわからなくて、じわりと涙が浮かぶ。あの子ならわかってくれる。だってずっと一緒に居たから。なにもしてないよって、言ってくれるはず。
なぜか、母の腕の中で守られるように抱きしめられているのかは、よくわからないけれど彼女も家族だから抱きしめられても可笑しくはないはず……なのに。
でも、なんでか嫌だった。腕の中は自分の場所だと。自分が一番初めに抱きしめられるべきなのに?だから、譲って欲しくて彼女の名を呼んだ。療養してからは、本当の名前でこっそり呼んでもいいんですよ、と言われていたから。
「なんてこと!?」
急に、母が怒鳴る。びっくりして目を開く。父も姉たちも、皆から睨みつけられる。ずっと怖くて、縮こまっているうちにやめてくれるかもしれないと、期待する。
「お前の言っていたことは本当だったのだな」
父が、手紙を見ながら眉根を下げてこちらを観察した瞳で見ている。その手紙は送ったものなのだろうか?届いていたことに喜びが勝る。
「手紙、読んでくれたの?いい子にしてたよ」
必死に病気も治って元気になったことを知らせる。けれど、誰もが嫌なことを聞いたように目を細めて鼻を憤りに鳴らす。
「この手紙はこの子からのものだ。お前の成り変わりを目的とした手紙なぞ、火に焚べた」
兄が、つんと鼻を上に上げてバカにしたように告げてくる。何を言っているのかわからなくて頭の中がぐちゃぐちゃになった。火に焚べた、火に焚べた。捨てた?火に何か入れたらなくなる。ぶわりと、悲しみを得た瞬間涙がボロボロと落ちていく。
「うわあああ!!」
涙が止まらないままに、大声で泣く。どうしてどうしてと言語化できない気持ちが声となって部屋に響く。
「……黙らせなさい」
低い声で命じたのは、母だった。優しげに名前を呼ぶ声しか知らないから恐ろしくてさらに、泣く。
声がガラガラになっても泣いていると、バチン!と音がして同時に鋭い痛みを覚えた。
初めての痛みに唖然として声が止まる。誰が叩いたのかと見ると、そばにいたメイド服の女性。このメイドはいつも可愛いと誉めてくれている人。
「い、いた?」
あまりの痛さに叩かれた肩を触る。ピリピリ、ビリビリして。ずっとジンジンしていた。
「え、え、い、いた、なんで、叩いて?」
うまく伝えられないからと、叩かれるなんて。涙がぶわりと浮かぶ。それでも手の痛みは無くならない。
「醜い」
掴まれている力が緩むことはなく、強いまま。泣き顔を見せても相手は手を緩めてくれない。
「早く視界からいなくなって欲しいわ」
「待て、もっと話を聞いて今後このようなことがないようにしなければならない」
当主、ポリアナの父が女の子を他人を見る目……いや、他人なんてものではなかった。あの男は、あの親のなりこないはポリアナをゴミを見る目で睨みつけたのだ。
まさかまさかの節穴。節穴のくせに実の娘を切り捨てた。文字通りのようなものだろう。だって、死んでもおかしくないことを、彼らはやってのけたのだ。そこに同情も哀れみも抱くことはない。悪いのは全員なのだから。後に語る時、きっぱり言い切れるほどに。
「あの部屋へ連れて行け」
「はっ」
またズルズルと部屋から出される。その間にも彼らに叫んで、父親たちが今直ぐ駆け寄ってくれることを願う。
「お父様!お母様!いや!いやいや!いやああっ」
めちゃくちゃに体を動かすがガッという音と共に視界が暗くなった。殴られたことを知ったのはずっと後のことだが、そのことを思い出すたび、この時が初めの一本だったのだろうと思う。
そこからは何が起こったのかわからないまま、ひたすら教育しなおされた。言葉は間違えていない。彼ら曰く教育のやり直しらしい。直すどころか彼らからこんなことを、今させられているのもを学ばされたりしたことはない。
知らないことばかり。わけがわからず、無理だと首を振っても意味はない。父も母も会いに来てくれずに、どれだけ泣き叫ぼうと慰めてくれる人もいない。
やめさせろと言う人もいない。表にたまに出されてテストと称したものをさせられ、父と母に会えて嬉しいと言うが相手は冷えた瞳で治ってないと判断を下されて、裏に戻される。
繰り返していくうちに、やらされているのがいわゆる影武者教育ということに漸く気付く。バカだ。己はとんだバカだ。
そのことを知ったのは影武者に押し除けられて、成り代わられたと理解した瞬間。つまり、前世の記憶が戻った時。どくどくと血の流れる頭を抱えて、孤児院から逃げ出した。後ろは炎で赤々と燃えている。
教育しても影武者として使えない烙印を押され、兄弟姉妹たちに投げつけられたことのない罵倒を受けつつ孤児院に入れられた。彼ら曰く戻しただけらしい。
元の場所と聞かされてなるほど、彼女はここで生きていたのかと納得した。彼女の腐った根元ができあがった場所。見た感じは劣悪ではないが、良い場所でもない。
当たり前だ。貴族として生まれて貴族として蝶のように育てられたらどこでも良くはない。それに、ここに来る前に散々元姉妹たちに虐められた。男兄弟にはどつかれ、女姉妹には髪を切られて今の髪型はガタガタ。
父母には常に冷めた瞳で睨みつけられるように見られる。影武者のあの子はそれを、可哀想だからやめてあげてと庇う役柄を常にしていた。
聖女ムーブをするためだけに利用されても、心を折られた自分には怒ることも責める言葉も出てこない。言えば何が体に当てられるのか、わからないのだ。
迂闊なことも言えやしない。療養中に体や見た目が変化したことで、両親も血の繋がりのあるものたちも己を区別する方法を失ってしまった。
もし、彼女に何か言おうものなら母からはムチ、父ならば張り手を食らう。最初の一度でそれをされて懲りた。身に覚えのない暴力、他人を見る眼、信じてもらえないことでなにもかも、どうでもよくなった。
孤児院に入る時は、漸く離れられたとホッとしたほど。しかも、孤児院に入れられる前に、本来影武者が主と同じ顔にされる流れを組むように己の顔は別人に変えられた。
貴族の娘と殆ど似た顔を使って、悪用されないようにとのこと。遂に本物の顔まで奪われて、落ちる所まで家族の手で落とされた。
無気力になって病気判定をされて、病室に押し込まれたあと孤児院で大きな火事があった。全てが灰になるほどの大火事。その時、ベッドから降りて頭を打った瞬間、前世の記憶が戻り死の偽装を行いつつ火事現場から逃げた。
新聞を盗み見てみたら大火事で亡くなった子供の名前に自分のものがあり、上手く行ったと笑みを浮かべる。これで己を探す者など居ない。顔も変わり、大きくなって誰かに似てしまいバレることもないのは僭越。運が向いている。
途中で魔法が解けても問題ない。自分の戸籍は消失したのだから。死亡して年月が経てばさらに本人の確認など、殊更難しくなる。
家族たち、元が付く身内たちから知られるなんて死んでも嫌だ。身の毛もよだつ。念入りに偽装を重ねた。
馬車を乗り継ぎ、気配を隠してコソコソと移動した。先はどこになるのだろう。まだこの身は小さいから具体的な教育はまだだったし、治療してきたから勉強もできていない。
このまま遠いところに向かいつつ、辿り着いた。馬車を降りると鉄の香りがして、花が舞っていた。街は海外の赤いレンガの街並みそのままに見覚えのある風景があった。アニメなどに出てきそうだ。
クルクル周りたくなるし、ルンルン歩いて街中を見てまわりたくなる外観。全てが可愛い。異国に迷い込んできた気分に浸れる。まあ、最初から普通にここは異国だけど。見て回るためにここを拠点にしばらく過ごそうと決めた。
改名もしないといけない。ポリアナという女の子は火事で死んだのだから。今日から前世で好きだったキャラクターの名前を使おう。
マシュマリアと改めた。
及第点というか、しっくりくる。これがいいと何度も己で評価した。やはり名付けは、自分でやるのが一番だ。
「さて、全て揃えないと」
舌足らずは卒業し、マシュマリアは気合を入れて歩き出す。数日間何度も言葉を重ねていけば、拙い言葉も無くなる。
これで完全に誰かからの過去の自分の印象や、イメージを結びつけられることはない。いくら探してもこの年齢の女の子は見つからないと思う。
「服、住む場所、働く場所。年齢がネックなんだろうけど」
一番は自身の本当の年齢だ。鯖を読めても四歳くらいがギリギリ。働けるのがどうかの年齢だろう。でも、ここまでハキハキ話せたら、年齢など関係ないと思わせられる自信はある。
「どうしようか……この見た目じゃちょっと不利か……」
幼女から抜けきっておらず、働かせてもらえるかは難しい。それでもそうしなければ生きていけないとわかっている。なのでサバを読むのだ。
実年齢より上の年齢を言い、仕事を得ることができた。知能からして精神的に成熟しているから嘘とも言えない。なんていうこじつけは、狡い大人の部分が担ってくれる。
「見た目は幼いのに知識が凄い」
働き始めてよく言われるようになった。当たり前だ。なんせ見た目は小さいが頭の中には大人並みの知識がモリモリなのだから。
凄いと言われ名を呼ばれて満更でもない気持ちになった。今まで自己肯定感を育ててもらえなかったので、足りないところまである。
働いて生活に余裕ができたら気になったことが増えた。次々と浮かぶ疑問。なぜ、療養中に親は手紙をくれなかったのか、とか会いに来てくれなかったのかとか。
もしかしてバレるからあの影武者女が来ないようにしたのでは、と。でないと手紙一つこないのも可笑しいし。すり替えられたか届くとこちらに届けず開封して捨てたか。小賢しくもやり方に抜かりがない。
腕を組む。入れ替わった彼女は高位貴族のために育てられただけはあり、知識も豊富で悪知恵がよく働く女の子だ。マシュマリアより上の貫禄なので負けてしまうのも当たり前。影武者が成り代わる女の子より賢くなればこうなる。
今までも知られてはいないが来たことがあったかもしれない。もしかしたら家系にはもう、本家の血筋が実はいなくなっている……なんてオチもあり得る。
まあ、もうあの家とは何の関係もなくなったので気にする意味もないけどね。血縁者だろうと縁切りを強制的にさせられた身としては精々する話だ。もうなんだかんだいつの間にか、影武者風情たちにお家乗っ取りされている方が楽しい。
エンターテイメント的には美味しい。大大スキャンダルってやつになるし。過去の先祖達の適合を調べてどこから途絶えているかも知りたい。もし繋がっていなかったから面白いことになる。
血筋が途絶えているなんてことが発覚したらどうなるのか、なんて考えなくてもわかる。途絶えていなくても今回は完全に乗っ取り行為だ。ただでは済まない。管理にもメスが入れられるだろう。
影武者というシステムには大きな穴があると今も絶賛感じている。似ているということは人目が少しなくなっただけで入れ替わり可能。大人の目がなくなり、相手に興味がなければ子供が入れ替わっていても判断できる者がいなくなる。
大きくなった子供を知らない人間がどうやって本人と判断するのか、という点を一族は考えたことがなかったザル感。
一族の一人を自分たちで堕として処分してしまうような、いつか起こるだろうと誰からも問題を突きつけられなかったなと呆れるほどだ。
年頃になるまでにこちらの知識とこちら側の魔法理論をなんとか解き、血筋を証明する魔法を作り上げた。もっと後になって実は偽物でしたという事実を知らせるのも考えたが、しっかり記録に残したいし記憶に残したいので早い段階で仕上げることにした。
すでに出来上がったものを披露すると、いろんな界隈に影響を及ぼしたが事件などの現場では役に立つと飛躍的に広がる。そういう使い方は想定していたので、勝手に使えばいいと思っていた。
見たいのはあの人たちの絶望に歪む叫びや泣き言なのだ。他の人など目に入らない。できれば近くで見たい。破滅を見たいなと溢すと相棒になった男は「あるぞ」とチケットを見せた。マシュマリアの祖国行きの乗り物だ。少し高めの席で買っていたことにビックリする。
「なんで……」
「お前を捨てた奴らを見てみたいのはおれも同じなんでな」
カッコつけて言われてもそれが様になるのだから、顔がいい人は得だと心の底から漏れ出た笑みはごく自然なものだった。
二人で早速と祖国に向かう。どうなっているのか近くで見たくて堪らなかった。調査員を送ろうと思っていたので、より精密に詳細が知れるだろう。
近くに潜み元家族たちを見るとやはり大パニックに陥っていた。古い名前の方を呼び続けている。ポリアナと。実子だと思っていた娘が娘ではなかったことで近隣にも知れ渡るほど、騒がしかったらしい。ほくそ笑んで勝利を確信した。
「私のポリアナはどこ!?」
母親や他の兄弟姉妹たちが慌てふためき、押し込んだ孤児院を調べると火事になっており死亡していることが判明した。姉は髪を切り刻んだのが妹と知って震える。
「そんなっ、そんなのって。あ、あの子の髪を切ったわ、わ、わ、私っ!」
別の子と間違われると思ったからこそそのままにしておいたが、功をなしたらしい。母親はムチを打ったのが実の娘と知って。
「いやぁああ!」
叫びまくる人たちを他所に王に結果が渡り、調査を受けて間違った娘を得た経緯などを調べられた。かなりキツく尋問されて身代わり制度の廃止を決める。
実の娘に顔を変える魔法を使用した残虐性を指摘されて、意気消沈。なにをしてしまったか思い出した面々は震えていたらしいが、そもそもしなければ良かっただけの話なのに。
何もしない選択肢もあった。ただ、何もしないで放置するだけでよかったのに。身の程を思い知らせなくても、十分施設だけで思い知らされた身として言い切れる。
目の前に顔を変えたままの状態で現れたらどうなるのだろう。死んだと思い込ませていた方がより、苦しむだろうか。偽物のマシュマリアに成り変わった女は、断じられてすぐに家の乗っ取りをしたと今は牢の中らしいが、まだまだ究明しなければならないことがたくさんあるから生きているとのこと。
運がいいのか悪いのか。彼女は一貫して家族になりたかったと証言している。聞いた時はまあそりゃそうなるなと思った。目の前で家族が仲良くしているのに、自分は身代わりで本物ではない役割をさせたら思考や性格も歪む。それを長年あの家は人に委ね過ぎたのだ。いつかこうなるのは、昔から決められていた運命と言える。
終わりが来るまで元家族たちは、本物の娘を殺した家として後ろ指を差されるのだ。それを今後もじっくり見させてもらおう。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。偽物と知ったけど出来がいい方を本能的に選んだのならそこまで後悔しなくてもいいんじゃないかと思いますがね




