表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ある者の語り

ある偽聖女の弁明

作者: ヒイラギ
掲載日:2026/07/01

「ええ、そうよ。私は偽物」

「本物の聖女?」

「私が追い出しちゃったわ」

「なに言ってるの?」

「あんたたちが私を選んだのよ」

「同罪よ」

「お金?権力?」

「そんなののためじゃないわ」

「私はただ、矯正したかっただけ」

「この歪んだ国を」

「聖女の祈りによって豊作になり」

「聖女の加護によって結界に守られる」

「一人の少女に国の存亡を委ねるなど、異常でしょう?」

「民のためには仕方ないこと?」

「あはっ……白々しいわね」

「あんたらが楽したかっただけでしょう」

「……」

「じゃあ、なんで今ここに偽物の私がいるの?」

「勝手なこと言わないで」

「私は騙してなんかないわよ」

「ただ自分の功績を主張しただけ」

「わかりやすい結果を見せびらかしただけ」

「それだけのことで、あんたらは私が本物だと思った」

「あんたらは聖女が毎日、懸命に祈ってたことも知らなかった」

「聖女が毎日、結界を何時間もかけて作り直していたことも知らなかった」

「毎日毎日毎日毎日」

「聖女をこき使っていたくせに」

「感謝するどころか見てすらいなかった」

「そんな者たちが統治する国などあってはならないわ」

「ええ、民は大勢犠牲になるでしょうね」

「すでに結界は薄れ始めている」

「土地もやがて痩せ細るでしょう」

「それでも」

「こんな国、私は認めない」

「人々に恨まれて」

「処刑される」

「ええ、それで構わないわ」

「これからどうするのかって?」

「私は何もしないわ」

「このままじゃ滅びるって?」

「そうかもね」

「……」

「ねえ」

「さっきからなんで自分は無関係みたいな顔してるの?」

「国を存続させるのはあなたたちの仕事でしょう」

「あなたたちは民を導く存在でしょう」

「あはは」

「むしろ、やっとあなたたちの存在意義ができたじゃない」

「……」

「うるさいわね」

「ぎゃーぎゃー喚かないで」

「……もう聖女に押し付けることはできない」

「だから、私の目的はもう果たされてるの」

「これからこの国は真っ当な統治で繁栄していかなければならない」

「だけど、滅びるなら別にそれでもいいのよ」

「そんな国ならもともと未来なんてなかったってことよ」

「魔女、ね」

「偽物の私には相応しいわ」

「尊き聖女を貶めて、追い出したんだから」

「連れ戻そうとしても無駄よ」

「聖女は帝国に送ったから」

「あそこなら聖女に依存する必要もない」

「聖女の力を正しく重んじるでしょう」

「やっと、誰も彼女には手出しできない」

「だからあんたらがどうにかするしかないのよ」

「ここへ来る前、私は城下に噂を流したわ」

「『あの聖女は偽物だ』『王太子は偽物を婚約者に選んだ』『本物は追放された』」

「あっという間に広まるでしょうね」

「あなたたちも、言い逃れできないわ」

「あははっ」

「慌てふためいて滑稽ね」

「全部、本当のことじゃない」

「私一人で国を崩すことなどできるわけないでしょう?」

「私は聖女の力も貴族の権力も持っていないんだもの」

「これはあなたたちの選択した結果よ」

「……」

「だから、さっきから言ってるでしょう」

「処刑されても構わないって」

「ほら、抵抗なんてしないわ」

「この国は正しき道を進む」

「もう私のやるべきことは終わったもの」

「……これ以上できることはないから」

「それでは、首に縄をかけられる頃に」

「またお会いしましょう――」

「――」

「ふうん、悪くないわね」

「処刑台から見下ろす景色も」

「民たちだって聖女を搾取したんだもの」

「好きなだけ憎悪すればいいわ」

「私が死んだら、嫌でも現実を知るんだから」

「処刑は目前だけど……」

「なぁんだ」

「特に何も思わないものなのね」

「ああ、でも――」

「……」

「……っ!」

「……ぅあ」

「……あ、の、子は」

「……しあ、わ……かな?」

「…………」


そして、広場に歓声が湧き上がる。偽物は裁かれた。 魔女は消えた。 いずれは、王侯貴族にも裁きが及ぶかもしれない。けれど、聖女は戻らない。

王都を覆っていた結界は薄れ、豊かな土地は少しずつ痩せていく。 祈りは届かず、奇跡は起こらない。

もう、聖女一人に縋ることはできない。

国が続くのか、滅ぶのか。

誰にもわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ