ある偽聖女の弁明
「ええ、そうよ。私は偽物」
「本物の聖女?」
「私が追い出しちゃったわ」
「なに言ってるの?」
「あんたたちが私を選んだのよ」
「同罪よ」
「お金?権力?」
「そんなののためじゃないわ」
「私はただ、矯正したかっただけ」
「この歪んだ国を」
「聖女の祈りによって豊作になり」
「聖女の加護によって結界に守られる」
「一人の少女に国の存亡を委ねるなど、異常でしょう?」
「民のためには仕方ないこと?」
「あはっ……白々しいわね」
「あんたらが楽したかっただけでしょう」
「……」
「じゃあ、なんで今ここに偽物の私がいるの?」
「勝手なこと言わないで」
「私は騙してなんかないわよ」
「ただ自分の功績を主張しただけ」
「わかりやすい結果を見せびらかしただけ」
「それだけのことで、あんたらは私が本物だと思った」
「あんたらは聖女が毎日、懸命に祈ってたことも知らなかった」
「聖女が毎日、結界を何時間もかけて作り直していたことも知らなかった」
「毎日毎日毎日毎日」
「聖女をこき使っていたくせに」
「感謝するどころか見てすらいなかった」
「そんな者たちが統治する国などあってはならないわ」
「ええ、民は大勢犠牲になるでしょうね」
「すでに結界は薄れ始めている」
「土地もやがて痩せ細るでしょう」
「それでも」
「こんな国、私は認めない」
「人々に恨まれて」
「処刑される」
「ええ、それで構わないわ」
「これからどうするのかって?」
「私は何もしないわ」
「このままじゃ滅びるって?」
「そうかもね」
「……」
「ねえ」
「さっきからなんで自分は無関係みたいな顔してるの?」
「国を存続させるのはあなたたちの仕事でしょう」
「あなたたちは民を導く存在でしょう」
「あはは」
「むしろ、やっとあなたたちの存在意義ができたじゃない」
「……」
「うるさいわね」
「ぎゃーぎゃー喚かないで」
「……もう聖女に押し付けることはできない」
「だから、私の目的はもう果たされてるの」
「これからこの国は真っ当な統治で繁栄していかなければならない」
「だけど、滅びるなら別にそれでもいいのよ」
「そんな国ならもともと未来なんてなかったってことよ」
「魔女、ね」
「偽物の私には相応しいわ」
「尊き聖女を貶めて、追い出したんだから」
「連れ戻そうとしても無駄よ」
「聖女は帝国に送ったから」
「あそこなら聖女に依存する必要もない」
「聖女の力を正しく重んじるでしょう」
「やっと、誰も彼女には手出しできない」
「だからあんたらがどうにかするしかないのよ」
「ここへ来る前、私は城下に噂を流したわ」
「『あの聖女は偽物だ』『王太子は偽物を婚約者に選んだ』『本物は追放された』」
「あっという間に広まるでしょうね」
「あなたたちも、言い逃れできないわ」
「あははっ」
「慌てふためいて滑稽ね」
「全部、本当のことじゃない」
「私一人で国を崩すことなどできるわけないでしょう?」
「私は聖女の力も貴族の権力も持っていないんだもの」
「これはあなたたちの選択した結果よ」
「……」
「だから、さっきから言ってるでしょう」
「処刑されても構わないって」
「ほら、抵抗なんてしないわ」
「この国は正しき道を進む」
「もう私のやるべきことは終わったもの」
「……これ以上できることはないから」
「それでは、首に縄をかけられる頃に」
「またお会いしましょう――」
「――」
「ふうん、悪くないわね」
「処刑台から見下ろす景色も」
「民たちだって聖女を搾取したんだもの」
「好きなだけ憎悪すればいいわ」
「私が死んだら、嫌でも現実を知るんだから」
「処刑は目前だけど……」
「なぁんだ」
「特に何も思わないものなのね」
「ああ、でも――」
「……」
「……っ!」
「……ぅあ」
「……あ、の、子は」
「……しあ、わ……かな?」
「…………」
そして、広場に歓声が湧き上がる。偽物は裁かれた。 魔女は消えた。 いずれは、王侯貴族にも裁きが及ぶかもしれない。けれど、聖女は戻らない。
王都を覆っていた結界は薄れ、豊かな土地は少しずつ痩せていく。 祈りは届かず、奇跡は起こらない。
もう、聖女一人に縋ることはできない。
国が続くのか、滅ぶのか。
誰にもわからない。




