世界線
今日から2泊3日の宿泊研修だ。
地域との交流を目的とし街に貢献するという名目だが、実際は生徒や先生との親睦会みたいなものだ。
地域の交流といえば、1日目の町内花壇の草むしりとゴミ拾いぐらいだ。
俺は宿泊先へ向かうバスの中から外をぼんやり眺めてた。
隣には聡美が座りお菓子をぼりぼり貪っている。
「俺にもポテチくれや。」
「いやだ。腹減ってんだ。」
ケチだなこいつ。
腹満たすためにお菓子はたべないだろなんて思いながら聡美と今後の作戦を練る。
「で、いつ千歳に告るんだ?」
「そればっかだな。お前は。2人きりにならないと告れないだろ〜?」
「わかった。そしたら班で晩飯つくるだろ?火起こしは俺と桜でやるから調理はお前と千歳でやれ。」
俺は親指を立ててウィンクしてやった。
キューピットにまわるのも悪くないな。
きっと自分が幸せだから思えることなんだろうな。
「ウィンクきっしょ。でも、サンキューな。その時に告る。」
決意を固めた聡美の横顔はだいぶこわばってみえる。
「大丈夫。上手くいくからさ。」
「お、おう。」
本当にプレッシャーに弱いやつである。
間もなくしてバスは宿泊先へ到着する。
少し街から離れた廃校だ。
田舎にはよくある街の交流館に改修された廃校。
中は木造で元は小学校だったせいか扉は小さいし水飲み場は低い。
市の職員が掃除しているのか中は思いのほか綺麗だ。
男子は3階、女子は2階に泊まるようだ。
俺と聡美は他の男子生徒と共に自分らの部屋へと向かう。
部屋もとい教室へ入ると机や椅子がかたづけられているだけで普通の教室だった。
黒板があり後ろ側にはランドセルを入れるであろう棚がある。
荷物を下ろし一息つく。
「しかし、この硬い床で寝させられるのはどうなのかねぇ」
聡美は寝袋を敷きながら愚痴を言う。
確かに泊まる部屋はただの教室なので床は硬い。
よく見ると釘が少し飛び出ていたりする。
「1日寝たら背中バキバキになりそうだな」
俺がそう言うと聡美はつづけて愚痴をこぼした。
「それが2日も続くんだぞ〜?やってらんねぇよ。」
10代だからできることだな。
つくづく若いって素晴らしい。
荷降ろししたら俺らはバスへ乗り街まで戻って花壇の草むしりへ駆り出された。
国道沿いの花壇。
全ての草をむしるとなると1年生全員でもなかなか骨が折れる。
無心でたんぽぽをむしる。
一発で太い根っこまで抜けると気持ちがいい。
隣では桜がミミズと格闘していた。
ウネウネするミミズを凝視しながらスコップでつついている。
「おい、あんまりいじめんなよ。」
桜の横へしゃがみミミズを掴んで遠くへ投げた。
「うわ!よく掴めるね…」
「蛾よりキモくない。」
予想外の動きをする生き物は苦手だ。
ゲジゲジとか足の多いやつは尚更無理だな。
「どっちもキモいだろ!」
桜は身震いした。
「そういえば桜。頼みがあるんだけどさ。」
「どうした?あらたまって。」
聡美との作戦を今のうち桜にも言っておこうと思った。
「今日晩飯作る時さ…」
桜が、「あっ」といい俺の話をさえぎる。
「今日ご飯作る時さ!千歳と聡美2人きりにしよ!」
突然の桜の提案に意表をつかれる。
桜と千歳は親友だし考えてみたら当然かと思い話を続ける。
「俺も同じこと考えてたんだよ。話が早くて助かるわ。」
桜はうんうんと頷きながら俺の方を見る。
「あの2人がくっつかないと聡美はともかく千歳が心配だからな!」
と桜はニコニコしながら言う。
「千歳が心配?なんで?そんな情緒不安定なの?」
俺がそう言うと桜は目を泳がせた。
桜は少し考え話を続ける。
「いや、まあ、うん。そんなとこ。意外に影響されやすいところあるし。」
俺は直感的に思った。
桜は千歳が将来どうなるのか知っているんじゃないか。
高校時代に戻ってから桜の言動には所々気になるとこがある。
俺は思い切って聞いてみる。
「桜。お前も人生2周目?」
「…」
桜は押し黙る。
草むしりの手が止まる。
周りの話し声が遠くなっていく。
「ちがう。」
俺が続けて質問しようとして桜は遮るように否定する。
「2周目なんかじゃない。…もう数えてない。」
「!? どういうことだ?」
「ビックリするよね。」
桜は俯いて黙ってしまった。
もう数えてない?それ程にループしているのか?
桜は何度も高校時代を繰り返している?
「何歳から何歳を繰り返しているんだ?」
「高校の入学式から19歳の途中までかな…」
「19歳?なんで?その歳になにがあった?」
嫌な汗がじっとりと首をつたう。
心拍数が徐々に上がっていくのがわかる。
「あたし、19歳で自殺してるんだよね。」
嫌な予想が的中してしまった。
でもおかしい。
俺が死んだのは30歳の時。
その頃、桜は生きているはずだ。
それに、26歳の時に桜は結婚したはずだ。
結婚式の招待状だってきたんだ!何かの間違いだ。
「俺は30で死んだ。その頃お前は生きていた。なんで…なんで…」
「…それ、たぶん…あたしの一回目の人生だ。」
そういうと桜は立ち上がり俺の手を掴んだ。
俺もつられて立ち上がり、先生や他の生徒にバレないよう人気のない路地までつれてこられた。
「ここなら草むしりサボれるしバレないから…」
桜はそういうと建物の壁に寄りかかりながら空を見上げていた。
「聞きたい事がありすぎる。」
「それはあたしも同じ…」
しばらくの沈黙の後、桜が口を開く。
「なんで30歳で死んだの?」
「自殺」
「!?」
俺がそういうと桜はびっくりした顔をすぐに怒りの表情へ変えた。
そして、間髪入れず顔面に平手打ちが飛んできた。
「いってえ!!何すんだよ!」
「あんた…自分が何したかわかってんの!!」
「うるせぇ!俺の人生何があったか何も知らねぇくせに!」
再び沈黙が流れる。
桜は涙目になり俺を胸に抱き寄せた。
咄嗟の行動に俺は意表をつかれ硬直した。
いい香りがする。
柔軟剤と甘ったるい香水の匂い。
「死んじゃうと生きた歳までしか生きられない。なんども繰り返す事になる。」
桜は震える声でそう言った。
生きた歳までしか生きられない?
じゃあ俺は高校から30歳までなんども繰り返すのか?
待て、じゃあ桜はどうなる!19歳で自殺しているならもっと早いスパンで人生をやり直しているのか!?
「じゃ、じゃあ桜…お前……」
「何度も同じ人生繰り返してたら気狂っちゃうよね…」
桜は力なく笑った。
きっと孤独な世界で、自分だけ周りと違う世界でやっと仲間をみつけたのだろう。
桜は何度も人生を繰り返している。
だけど…俺はタイムリーパー桜と初めて会った。
聞く限りおそらくタイムリープのトリガーは自殺だろう。
もしくは自殺することによって別の世界(人生を何度もやり直す世界)へ飛ばされる。
桜は一回目の人生でなにがあったんだ。
「桜、一回目の人生は何歳に何で死んだんだ?」
そう聞くと桜はまた弱々しく笑って話し始めた。
「30歳に自殺した。旦那が他所で子供つくるわ、性病うつされるわ、問い詰めたら殴るわ、散々だったよ。もう関係ないけど。」
「俺と同じ歳に死んでたのか…」
絶句してしまった。
上手くやっていると思った桜の人生は俺の人生より遥かに悲惨だった。
「それから何度も人生やり直したよ。もちろん楽しい人生もあったよ。
未来のこと知ってるわけだし…それで上手くやれない方が難しいよ。
けど、虚しいよな。何度やり直してもふりだしに戻される。
理解者もいなくてずっと一人ぼっちだったんだ。」
整理すると桜は30歳で一度死んでいる。
その後15歳の高校入学までタイムリープし、何度か人生をやり直している。
自分だけ同じ人生を繰り返すことに絶望し19歳で自殺。
再び15歳にタイムリープし19歳になるとまた15歳に戻る。
15歳から19歳の間の人生を繰り返している。
自殺するとその地点で人生の終わりが決まってしまうようだ。
「世界線思考ってしってる?」
唐突に桜が聞いてきた。
「選択肢の数だけ世界が存在していくつもの平行世界があるんだ。あたしはどの世界線でもみんなが幸せになるように行動してた。千歳と聡美をくっつけたりね。」
「でも、みんなの世界にお前は一緒にいられねぇじゃねぇか!」
「わかってるよ。そんなこと。……でも、これからは龍之介がいる。」
桜は俺をずっと抱きしめたままだ。
桜の鼓動は穏やかにトクントクンとなっている。
5月の小春日和は土の匂いと僅かに夏の匂いを風にのせていた。
おおまかなストーリーは変える気はないがそのうち所々表現などは改良したい。




