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ランナーズハイ  作者: 鵲 壱汰
3/5

錆び付いた歯車が廻る

5月に入り、高校の廊下には新緑の香りが漂っていた。

丁度、いわゆるお迎えテストが終わり学校にも慣れてくる時期だ。

五月晴れの青空が広がり雲一つない澄んだ空につつまれていた。


しかし、勉強って意外に楽しいもんだな。

真面目にやるほど成果がでるし褒められる。

前回は授業なんて睡眠時間としか思ってなかったけど、今回は検定の勉強しっかりやってみようかな...。


「龍之介おつかれい!今日マックよってこうぜ!」


聡美が俺の机にドカッと座り話しかけてくる。

まだ5月だっていうのにすでにブレザーを脱ぎ腕まくりをしている。


「わり、予定あるんだ。」

「なんだよ最近つれねぇな~」


にやけながら聡美は椅子に座る俺に彼女か~?と屈みながら肘で小突いてくる。


「桜と図書室で勉強すんだ。ちょっと調べ事すんの」

「スマホで調べりゃいいじゃん」

「参考書とかの方が正確な情報だし見やすいからな」


俺がそう言うと聡美はつまらなそうに相槌を打つ。


「ふーん。俺も図書室行こうかな...」

「お前には他にやることがあんだろ」


聡美は千歳のことが好きらしい。

好きらしいというか昔から知っていたんだけど。

前回は千歳が東京に進学したので疎遠になってしまった。

自分が素直になった分 友達にも頑張ってもらいたいところ。

自己満足かもしれないけど。


「最近やたら俺と千歳2人にさせたがるじゃん…」


聡美は目をキョロキョロさせながら頬をかく。

このピュアさは高校生特有のものだ。

今しか出来ない恋愛があることを是非とも聡美に教えてあげたい。


「中学の時から思ってたけど千歳は絶対お前のこと好きだよ?」

「それ言ってんの龍之介だけだからな?」

「じゃあ桜に探り入れてもらうか?」

「待ってくれよ!友達関係崩れたらどうすんだよ!」

「千歳とお前にはくっついてほしい。本気でそう思ってんだよ。」


聡美は少し考えた後につづける。


「...お前そんなキャラだっけか?なんか高校入ってから変わったよな〜熱血っていうの?」

「元からこういう性格なんだよ。あの時はその表現の仕方がわからなかっただけだ。」


聡美はそんなもんかと腕組みしながら言う。

ふと時計を見ると桜との約束の時間が近づいていた。


「わり、そろそろ行くわ。」

「おう!勉強頑張れよ!」

「はいはい、お前は千歳をデートにでも誘えよ」

「ははは、そうだな。頑張ってみるかな」


そういって俺は頭の横で手をぶらぶらさせ、またなと教室を後にした。


少し小走りで図書室へ向かう。

図書室は1年校舎の1つ上の階の4階。

端っこの部屋にある。

放課後の図書室は主に3年生が受験勉強に使っている。

1年生はほとんどいない。

図書室の端、中は少しホコリの匂いが漂い西日が差し込む窓にはカーテンが揺れている。

窓際の椅子に桜は座っていた。

外の景色を見てたそがれているようだ。

暇していたのかイヤホンで音楽を聴いている。


「わり、待たせた?」

「いいや?さっき来た。」


付き合ったというものの一緒にいる時間が元から長かったせいか話題がすくない。


「調べ事ってなんだ?最近勉強も真面目にしてるみたいだし進学でも目指してんの?」

「そんなんじゃねぇよ。バイクの免許取ろうかなと思ってさ。」

「え、うちの学校バイクの免許取るの禁止だよ?」


俺は真顔で言う。


「それがどうした?」


桜は思わず苦笑した。

呆れ顔のような表情で頬杖をつきながら俺を見る。


「バレないの?田舎だから自学なんていったらバレるよ。」

「夏休みに合宿免許で遠方に行くからバレない。」

「お金は?あんたバイトしてないじゃん」

「ぬかりはない。6月からバイトはいってくる。日当1万らしい。きついらしいけど。」


運送会社の荷降ろしなどの力仕事は元請けが大体下請けになげる。

下請け会社に片っ端から電話して仕事を回してもらうのに成功した。

経験者ってこともあってか割と早い段階で見つかった。

前回のバイト暮らしがこんなとこで役立つとは。

桜は心配そうというか怪訝な顔をして俺に言う


「それ、大丈夫なバイト?...」

「はは、ただの力仕事だよ。」


桜はふーんと不機嫌そうに口を尖らせてそっぽを向く。


「大丈夫。一緒の時間は必ずつくる。寂しい時は電話するし会いにもいく。」


桜はビックリしたようにこちらを向き眉間に皺を寄せ顔を赤くさせる。

口元だけわずかに緩んでにやけえいるようにみえる。


「な、バカじゃん?」


そう言うとまたそっぽを向いてしまった。


「合宿免許も一発で受かってさ二人でいっぱい色んなとこ行こうな」


前回できなかったこと全部やってやろうと思った。

それと同時に桜にずっと笑顔でいてもらいたいと思った。


「海行きてぇし、夏祭りも行きてぇな〜街の縁日制覇しようぜ。」


桜は依然として眉間に皺を寄せそっぽを向いている。


「あたりまえじゃん」


ボソッとつぶやく。

よかった。桜も楽しみにしてくれているみたいだ。


その後免許の学科勉強をそこそこにし帰ることにした。

廊下にはオレンジ色の光がそそぎ吹奏楽部の練習音が遠く響いている。

桜と付き合ってからというもの家まで送るのが日課になっていた。


「そーいやさ。中学の時つきあってたやつって先輩だったよな?」

「そー。部活の先輩。あたし幽霊部員だったけど。」

「どっちから告ったの?」

「むこうから。周りから煽られて付き合ったんだよ。」

「桜は先輩のこと好きじゃなかったの?」

「うーん、どうだろ...好きといえば好きだったのかな?」


桜がじっとこちらを見る。


「なんだよ」


というと桜はニヤニヤしながら言う。


「焼いてんのか?」


この感情はヤキモチなんて簡単な言葉で片付けられない。

俺の精神がまだ10代ならヤキモチで終わっていたんだろう。

ただ、今は桜の幸せが1番なんだ。

別れるくらいなら最初から付き合わないで欲しい少しでも桜に辛い思いをさせないで欲しい。

それが桜の元彼に対する思いだ。

だからこの問いに対する答えは


「ヤキモチより殺意かな。元彼に。」

「重っ...。てかこわ...。」

「そうだな。うん...こわいな。はは」


きっと俺と桜は同じ気持ちではないのだろう。

それでもかまわない、桜が俺を必要としてくれる限り俺はそれに応えよう。


「てか、龍之介本当に変わったよな〜。なんか

活力あるっていうか」


帰り道が薄暗くなり、街頭がぽつりと着いてきた。

桜は不思議そうに俺を見る。


「変わってないよ。自分の表現の仕方が下手だっただけ」

「そうかなぁ〜。でもなんかガキ臭くなくなった。」

「そんなガキ臭かったかなぁ」


学生時代の自分を客観視するのは難しいな。

というより恥ずかしい。


「もっと斜に構えてたじゃん。変に大人ぶってた感じがガキっぽかった。」


10代の頃は早く大人になりたかった。

そして早く周りの大人を否定してやりたかった。

大人の言うそれじゃ社会ではやっていけないだとか、将来後悔するだとか。

大人になったらもっと勉強しとけばよかったと思うぞなんて口を揃え同じ言葉を吐く。

俺なら人生に後悔する選択肢を選ばない。

勉強なんてしなくても生きていける。

勉強より仕事してる方がよっぽど楽だ。

そう胸を張って言ってやりたかった。

実際、勉強なんてしなくても仕事にはありつけたし体を使えばそこそこ稼げた。

勉強より楽な仕事もあるし社会でやっていけない事なんてなかった。

だけど、歳を重ねるごとに心配事は増えていったし金は自分を養う以上に必要になっていった。

俺の思っていたことはある意味正しかったのかもしれないが後悔だけが残った。


「ここでいいよ。」


桜の家についたころ辺りはすっかり暗くなっていた。

まだ肌寒い北海道の5月は星が綺麗に見える。

夜に見る桜の顔は家から漏れる光に照らされ、いつもと違う特別な感じがした。


「んじゃ、また明日」


そう言ったら桜は顔の横で手ひらひらと振った。


「うん。またな〜」


扉が閉まる音が住宅街にこだまする。

俺も家路を急ぐ事にした。


途中、昔からの馴染みの店が目に入る。


「...マジマ楽器店」


自然と口に出る。

ショーケースには楽器が煌々と照らされている。

中学はここに通って弦の貼り直しとか教えて貰っていたっけ。

無意識に店内に吸い込まれる。

店の少し重たい扉からカランコロンと心地のいい音色が鳴る。

店内はギターやベース、金管楽器や木管楽器が所狭しと陳列され売り物かよく分からない楽譜が積み上げられている。


「いらっしゃい...」


懐かしいしゃがれた声。


「ん?龍ちゃんかい」


オーナーの真島さん。

ピアノ椅子に座りながら鍵盤を磨いていた手を止め老眼鏡をズラしながらゆっくりとこちらを見る。

この時代はまだ生きてる。


「真島さんお久しぶりです。」

「久しぶり?ついこの間も来てたでしょう」


そうだ。この頃は暇見つけてはここに来ていたっけ


「あれ?そうでしたっけ?」

「今日はどうしたんだい?また楽譜あさりに来たのかい?」


俺は少し考える。

そして思い切って相談してみることにした。


「...真島さん。俺もっと本気でギターやりたい。」

「んん?」


真島さんは一瞬びっくりした顔をし笑いながら言う。


「本気ってプロでも目指すのかい?」

「ギターで飯食おうなんて思ってない。ただ、悔いが残らなければいい。」


ふむ、っと真島さんは一息つく。


「ちょっとまってなさい。」


そう言うと店内の奥へ行ってしまった。

この店は住宅と店が繋がっていて2階が居住スペースになっている。

しばらくすると真島さんが数冊の楽譜らしき本と機械の端末を持ってきた。


「楽譜とチューナーですか?」


そう質問すると真島さんは首を横に振った。


「龍ちゃんチューナーは持ってるでしょ?」


チューナーは音を正確に合わせる機械。

昔この店で買ったチューナーを使っていたな。


「はい、持ってます。」

「これは電子メトロノームだよ。こっちは基礎練習の教本」

「基礎練ですか?」

「若い子たちは最初から曲弾きたがるでしょ?基礎ができてないからリズムキープできてないわノイズ入るわ。」


俺が訝しげな顔をしていると真島さんは続ける。


「みんな何で基礎練習を疎かにすると思う?」

「そりゃ、つまんないし...。」


「地道な練習はつまらないもんだよ。でも、何でも応用が効く。基礎ができてなきゃいくら小手先の技術を磨いても駄目だよ。」


確かにその通りだ。

安定感のない演奏なんて聴くに耐えない。


「1日どれくらいやったらいいですか?」

「ふむ...なれるまでは2時間ゆっくりとやりなさい。スムーズに弾けるようになったら1時間くらい基礎練習してから奏法の練習なり曲の練習なりしなさい。」

「わかりました。」


俺はその場で教本をパラパラとめくり、分からないところはその場で聞いた。

気づいた頃には時刻は19時を回っていた。


「あ、帰らなきゃ。真島さん代金は?」

「いらないよ。孫にあげたやつなんだけどね。三日坊主ってやつだよ。」


俺はありがとうございますと深々と頭を下げ店を後にした。

足早に家へ帰りその日はすぐ床についた。

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