やり直し
翌日、俺は決めていた。
怠惰に送っていた学生生活をがらっと変えてやる。
あ~なんていい日なんだ!いい天気だ。
鳥は歌い花は咲き誇る。
この世の全てが輝いているぜ。
俺の地元は港町だ。
四方海に囲まれて、坂道が多い。
通学路の高台から見える海は穏やかに輝いている。
歩いていると聞きなれた声が後ろから聞こえる。
「おっす龍之介!昨日大丈夫だったか?」
俺の親友 島野 聡美だ。
身長180cmでガタイが良く文武両道。
「お、聡美久しぶり~お前の...」
結婚式以来だっけ?という言葉を飲み込んだ。
我ながらベタなミスをするところだったな。
「お前の...なんだよ?てか久しぶりか?3日前も俺家来てたじゃねーか」
聡美が目を細め怪訝な顔をしている。
いけない 誤魔化そう。
「お前の顔マジでかっこいいよな。交換したい」
これは我ながらキモいわ、しくじった。
聡美は驚いた表情で目を丸くし、一瞬固まった後、思わず吹き出して笑った。
「はあ?何言ってんだよ急に!まだ熱あるんじゃねぇのか?」
「大丈夫大丈夫。もう全快した。心配すんな。」
久しぶりに見た通学路は懐かしいような、こうして聡美と初めて話すことでもデジャヴを感じる。
学校に入り上履きに履き替えるのもそこそこに階段を駆け上がった。
「昨日学校見て回ったから案内してやるよ」
「いや大丈夫。教室こっちだろ?」
「あれ?何で知ってんだよ」
「ほら、入試の時行ったし」
少し古い木製の引き戸を開け教室に入ると見慣れた顔ぶれ。
懐かしさを覚えながらもコイツの名前なんだっけと考える。
その中には俺の幼なじみで初恋相手の目黒 桜が机につっぷしていた。
彼女とは小3からの付き合いだった。
こうしてまた桜と話せる。
「桜おはよ~」
高まる気持ちを顔に出さないよう平然を装い声をかけた。
「え!?」
桜は目を見開き一瞬呼吸さえ止まったように硬直していた。
「え、桜?」
「あぁ...ごめんごめん!久々に話したからびっくりしてさ...」
そう言いながらウルフカットの黒髪を整えながら顔を隠す。
心做しか彼女の頬はほんのり赤みが差してる気がした。
「あ~、中3から彼氏いるだろ?これでも気使ってんだぜ?」
「あんなの半年で別れたって。ノリで付き合っただけだし...」
半年で別れてたんだ。
知らなかったな~前回は高一の時あまり関わってなかったからな。
「ははっ、なんだそれ~男可哀想に」
ちがう。俺が言いたいのはこれじゃない。
もう斜に構えない。斜に構えたくない。
今の俺ならもっと本当の俺を表現できる。
「俺にしとけや」
周囲の視線を集める。
ほんの一瞬教室のざわめきが止む。
俺は桜の手首を掴み顔を覗き込んで言った。
しっかり目を見て言いたかったんだ。
「ちょ、ちょっといきなり何言ってんの!ふざけんなよ!」
桜は顔を近づけ小声で怒る。
彼女こだわりのアイメイクが目に入る。
昔っからコイツはアイメイク命だよな。
綺麗なまつ毛。
ジャラジャラと耳に空けたピアス。
切れ長な目。
俺はこいつのこと本当に
「好きだ」
あぁ、ようやく言えた。
重たい荷物をようやく下ろすことが出来た。
そんな気分だ。
桜の顔が一瞬で真っ赤になると同時に体が硬まっていた。
「はーいホームルーム始めるぞー」
そう言いながら担任教師が入ってきた。
その呼びかけがざわつく室内に響き渡ると、生徒たちは各々席についた。
「じゃ、またあとでな~」
そう桜に言い俺は自分の席へ座った。
さすがに告るのはやり過ぎたか?
そう自問自答していた。
「お!今日は宮部来ているな!風邪は大丈夫か?」
担任教師は俺の方を見つめそう言った。
「大丈夫っす!全快っす!」
「そしたらみんなに自己紹介してくれるか?昨日みんなやってるから」
クラスメイトの視線が集まる。
俺は席を立った。
みんなが自分に視線を向けているのを感じている中、ふと桜の方へ視線を送ると彼女はそっぽを向いていた。
「宮部 龍之介です。趣味はギターと歌うことです。中学の文化祭で弾き語りをした事もありました。よろしくお願いします。」
俺が自己紹介を終え一礼すると疎らに拍手の音が鳴った。
思えば、中学が人生最高の時だったな。
社会人になってからギターなんて触る時間なかったし。
本気でギターと歌、やってみようかな。
「はい、自己紹介ありがとう!じゃ、改めて担任の名倉です!みんなには昨日言ったけど教科担当は簿記とビジネス基礎な!」
ハキハキと喋る名倉先生は高身長で眼鏡をかけ、ひょろっとしている。
俺の高校、クラスがえ無かったから3年間同じ担任だったんだよな。
「じゃあ1時間目簿記だから先生また来るからな!1回解散!」
そう名倉先生が言うとふたたび教室はざわつき始めた。
「ねぇねぇ龍之介くん!」
隣の席の女子が話しかけてきた。
こいつは峰 千歳。
身長が低めでロングヘアが良く似合う、俗に言う清楚美人。
小中と学校が一生で聡美や桜とも仲がいい。
いわば俺らは仲良し4人組だったんだ。
「ん?なした?」
「さ、さっきさ、桜ちゃんに何か言ってたよね?」
千歳は頬を赤らめながら言った。
両手を顔の前であわあわさせている。
「告った。普通に。」
俺がそうこたえると千歳は余計に顔を赤らめあわあわしていた
「普通にって!ちょ!ええー!!」
うーん。
普通にって言い方ちょっと気取ってたな。
なんかこの言い方良くない気がする。
もっとこう…直球勝負でいきたい。
「昔から好きだったんだ。あいつの全てが好きだ。」
よし、これだ。
「龍之介くん熱まだあるんじゃないかな!そんな性格だっけ?前はなんと言うかいつも気だるげで...」
千歳はハンカチを手に持ちぎゅっと握っていた。
まるで千歳が自分で恥ずかしいことをしたかのようなリアクション。
これが共感性羞恥というやつかな。
「いいか?千歳。思いを伝えることは恥ずかしい事じゃない。そりゃ、好意を持たれてないやつから告られたら迷惑かもしれないけどさ。俺が気持ちを伝えられず後悔するのは嫌なんだ。」
俺は千歳の目を真っ直ぐ見ながらそう言った。
とにかく友達に対しても変化球を使うのが嫌なんだ。
直球勝負これが一番後悔がない。
「そ、そうだよね!ごめんね。からかってるつもりじゃないよ!」
千歳は焦りながらそう言った。
ハンカチを握る指先が白く力を入れているのがわかる。
「俺の人生だからさ。多少の自分勝手は許されるだろ」
「なーにが俺の人生だ。なんか桜モゾモゾしてんぞ。どーすんだあれ」
後ろからそう聡美に言われ桜の席の方見た。
指で机をトントンしたり貧乏ゆすりしたり頭かいたり落ち着きがない。
あいつ自分のペース乱されたらあーなるんだな。
俺がふたたび桜の席へ立とうとすると予鈴がなった。
どうやら話の続きは昼休みまでお預けのようだ。
昼休み教室には桜の姿は見当たらなかった。
でも、知っている。
あいつは昼休みは決まって購買にいって駐輪場でパンを食べている。
だけど1年の時は教室から購買が遠いからパンが買う前に売り切れてしまうことが多くてアイツは学校抜けてコンビニに行ってた。
コンビニに行くのに自転車つかっていたからそれで駐輪場で昼飯食うのが癖になってたんだ。
学校を抜け出してコンビニへむかっていると途中で桜を発見した。
「やっぱりコンビニ行ってたか」
そういうと桜はまた目を丸くさせこちらを凝視する
「あんた...もしかしてさ」
桜が何かをいいかけてたが、いやなんでもない、多分勘違いとにごされてしまった。
学校へ戻るあいだ桜と話した。
「あのさ、今朝は急にごめんな。こたえはくれなくていいから」
「…」
桜はうつむいて何も反応しない。
昼の日差しが心地よく全身を包み込み、カモメの鳴き声と桜の自転車の車輪の音が静寂の中に聞こえる。
「どうしても伝えたかったんだ。昔から好きだった。」
ふたたび沈黙が流れる。
もうすぐ学校の駐輪場だ。
すると校門から少し前の場所で桜は立ち止まった。
桜がこちらを見る。
俺から見ると小さくて華奢だ。
爪がしっかりケアされていてピカピカしてる。
俺は黙って桜を見ていた。
「あたしも好き。昔から。」
火照った頬がより彼女を魅力的に見せる。
潤んだ瞳がこちらを見ている。
「あ...そうか。...そうだったか。」
鼓動が激しく上下する。
息を吐くのを忘れてしまう。
落ち着け。
まさか両思いだったなんて、舞い上がってしまう。
この気持ちを悟られないようにしなければ...
いや、全部さらけ出そう。
もう、諦めることも恥じらいも駆け引きも全部やめよう。
「付き合おう。俺が桜を誰よりも幸せにする。命に変えても」
自分でも歯が浮くほどむず痒いセリフ。
彼女は目を丸くさせ、俯き、俺の胸に軽くパンチした。
「バカかよ。恥ずかしいこと言ってんじゃねー」
彼女手が胸越しに震えていることがわかる。
「こ、これからよろしく...龍之介」
「おう」
4月の心地よい風が花と土の香りを運んでくる。
少し遅い雪解けだった。




