手をつないだまま、エンドロール
暗い映画館の席に並んで座った瞬間、隣の舞の肩が、そっと腕に触れた。
まだ予告編すら始まってないのに、ざわざわした空気の中で、舞の体温だけがやけにくっきり分かる。
今日、誘ったのは私だ。
新しい恋愛映画が上映されるって知ったとき、舞と一緒に見たいって思った。
理由は、分かってる。
こういう話を見たら、舞は少し甘くなる。
「綾、ポップコーン取って」
舞が小声で言う。
バケツは私の膝の上に乗ってる。
舞はいつも、こうやって当たり前みたいに甘えてくる。
私は言葉を返さず、バケツを少し傾けた。舞の手が取りやすいように。
指先が、ほんの一瞬触れた。
それだけで、舞がくすっと笑った気配がする。
暗くて顔は見えない。
でも、分かる。
きっとあの、ちょっと意地悪そうな私の好きな笑顔だ。
やがて映画が始まって、オープニングの音が響く。
画面が明るくなるたびに、舞の横顔が浮かび上がった。
長いまつ毛。
細い鼻すじ。
少し尖った唇。
見慣れてるはずなのに、今日は特別に綺麗に見える。
デートだから、ちゃんとメイクしてきたんだろうな。
普段より少し大人っぽい。
物語は運命みたいな出会いから始まった。
同じカフェで席を譲り合って、そこから恋が芽生える。
ありがちなのに、胸がきゅんとするやつ。
私はスクリーンを見てる。
でも、半分以上は舞の反応を見てる。
舞は感情が入ると、すぐに私の袖を掴む癖がある。
そして案の定、告白のシーンで。
ぎゅっ。
舞の指が私の腕に絡みついてきた。
結構、強い力。
スクリーンの光が舞の横顔を照らして、目が少し潤んでるのが見えた。
泣き虫なんだから。
本当に昔から、変わらないんだから。
私はそっと、自分の手を重ねた。
舞は一瞬びくっと固まって、それから指を絡め返してくる。
手のひらが少し汗ばんでる。
緊張してるのかな。
そしてクライマックス。
二人がすれ違って、別れそうになる場面。
音楽が切なくて、会場が息を止めたみたいに静かになる。
私は舞の手を強く握り返した。
離さない。そういう意味で。
舞も同じタイミングで握り返してきた。
明るさと暗さが何度も入れ替わる中で、私たちの手だけはずっと同じ場所にあった。
ずっと、離れない。
エンドロールが流れ始めて、明かりがつく直前。
舞が私の肩に頭を預けてきた。
「綾……」
小さな声。
私は返事をしないで、舞の髪をそっと撫でた。
シャンプーの匂いがふわっと広がる。
甘いフローラル系。
舞の好きなやつ。
明かりがついて、周りの人が立ち上がり始める。
でも私たちはまだ動かない。
舞が顔を上げて、私を見た。
目が赤い。
ほんとに泣いてたんだ。
「最後、幸せになってよかったね」
私が言うと、舞は照れくさそうに笑って、
「うん……でも、ちょっと切なかった」
そう呟いたあと、急に真剣な顔になった。
「綾は?」
「私は……隣に舞がいてくれたから、ずっと幸せだった」
少しだけ考えて、それでも正直に言った。
言い終わった瞬間、恥ずかしさが遅れてくる。
でも舞は目を丸くして、次に顔を桜色にしてた。
「ずるい……そんなこと、急に言わないでよ」
小声で文句を言うくせに、嬉しそうに私の腕に抱きついてくる。
映画館の通路を歩いてる間も、ずっと離れない。
外に出たら、冬の空気が冷たかった。
頬がきゅっと締まる。
その瞬間、舞が私のコートのポケットに手を入れてくる。
「寒いね」
私は自分の手を重ねて、舞の指を包んだ。
温めるみたいに。
街灯の下で、舞が上目遣いに私を見る。
「ねえ、綾」
「ん?」
「今日、すごく楽しかった。また……来ようね」
私は頷いて、舞の指を少し強く握った。
離したくない。
ああいう映画みたいに、すれ違って苦しくなるのは嫌だ。
私たちは、もっとちゃんと。
もっとまっすぐに、ずっと一緒にいるんだから。
帰り道、コンビニに寄って温かいココアを買った。
ベンチに座って、並んで飲む。
舞が私の肩に頭を乗せて、静かに言う。
「綾、好きだよ」
突然すぎて、ココアをこぼしそうになった。
でも、ちゃんと聞こえてた。
私は舞の頭を撫でて、同じ熱で返す。
「私も、舞が大好き」
夜の街は静かで、私たちの声だけが小さく響いた。
映画の続きが、もう現実の中で始まってるみたいだった。
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