047-3
そのうちにアデレイドがツツ……、とアーネストに近づく。
「あのぉ、気になっていたんですけど、ヘザーさんは伯爵令嬢ですわよ」
「…………え!」
アーネストは慌てたようにヘザーに質問した。
「お前……あ、いや、君は伯爵家のご令嬢なのか?」
「ええまあ。身分的には」
アーネストは顔を忙しく赤くしたり青くしたりと、自慢の美しい顔を変化させた挙げ句、最後に逆切れした。
「ヘザー・アシュビー伯爵令嬢におかれましては、先ほどから無礼な態度の数々、申し訳ございませんでした。……しかしだな、こういうことがあるから、やはり身分に応じた服装というのは必要なんだ!」
「……アーネスト様は、一体どうなさったのでしょうか?」
本気で何を言われているのかわからない、といった様子のヘザーに、メリーローズが口をはさんだ。
「アーネスト様は、ヘザーさんが自分より身分が下だと思い込んでいたのに、実は実家の爵位が上だと気がついて慌てているのですわ」
「……その……口の利き方も悪かった。本当に申し訳ございません」
苦虫を嚙みつぶしただような表情のアーネストに、ヘザーは手をひらひらさせ、こともなげに言う。
「ああ、全然気にしていませんから」
「君が気にしていなくても、僕が気にするんだ!」
なんとも嚙み合わない二人である。
苦笑したメリーローズはまたアーネストに助言した。
「アーネスト様。そんなに仰るなら、ヘザーさんにドレスをプレゼントしたらよろしいのではないかしら?」
「わあ、素敵です!」
アデレイドが無責任に同意する。
「いえ、結構です」
にべもないヘザーに、メリーローズが食らいついた。
「この先、何かとドレスを着用しなければいけない場面もございますわ。それにアーネスト様だって、このまま何も謝罪できなければ、お気が済まないことでしょう。むしろアーネスト様を助けると思って、受け取ってはいかがかしら?」
「ほほう、人助けですか」
(それはちょっと違うんだけど……)
メリーローズは苦笑したが、アーネストは少しホッとした表情で改めてヘザーに申し込む。
「そうですね。……僕の気持ちが済むように、あなたの衣装を仕立てさせてください」
「まあ、そこまで仰るなら……」
渋々といった口調のヘザーにアデレイドが聞いた。
「どうしてそんなに、嫌そうなんですか? わたくしはドレスを作るとき、いっつも楽しみですよお」
「…………派手な服は、似合いませんので」
(おや、まるで興味がないというわけでもないのだろうか?)
ヘザーの返事を聞いて、シルヴィアは意外に思った。
「派手にしたくないのなら、色味を抑えるといいと思いますわ」
メリーローズが助言する。
「例えば、茶色の光沢があるグロリア地なら、赤い髪に馴染みやすいでしょう。そしてふくらんだ袖のデザインがいいわ。これはマストね!」
「ほほう、袖をふくらませて、船のマストにくくりつける……」
「違います!」
ヘザーの天然ボケに、秒で突っ込むメリーローズだ。
「そういえば、最近流行り始めているんですよお、パフスリーブ。さすがメリーローズ様、流行に敏感ですわあ」
おしゃれに敏感な(でもそのセンスはどこかズレているらしい)アデレイドが感心した。
「(へ、へえー、そうだったんだ)勿論ですわ。ほほほ……」
メリーローズの脳内に浮かんでいたのは、この世界でのファッションの流行ではなく、前世の少女時代の愛読書である。
(せっかくの赤毛に三つ編み。ヘザーには茶色いふくらんだ袖のドレスを是非着てもらわなくちゃ!)
心の中でこっそり、ヘザーに「眼鏡を掛けたアン」というあだ名をつけているメリーローズであった。




