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046-2

 和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気の一同を、後ろからシルヴィアが観察する。


 はじめのうちこそ、緊張感を持ってミュリエルやヘザー、アデレイドといった、疑惑のある面々を注視していたが、そのうちフッと息をついた。


(どうしても『ゲーム』の流れにとらわれて、彼らに疑惑の念を抱いてしまっていたが、こうして日の光の下、年相応に明るく笑う様子を見ていると、隠された思惑や陰謀など、こちらが勝手に投影したものだと思えてくる)


 ミュリエルは本当に真面目ないい子で、少しばかり権威のある者――「大精霊教」の司祭とか、学院の教師といった人々――のことを盲目的に信じすぎるきらいはあるが、言葉を変えれば素直な少女ということだ。


 アデレイドとヘザーが陰でコソコソと何かを取引していたことは確かなのだが、これもメリーローズが危惧したような、危険な「どらっぐ」といった(たぐい)のものではなさそうである。


(確かに中毒性のあるものを売買しているようなのだが、それが『どらっぐ』とは限らない。他に中毒性があるものと言えば、例えばわたくしが先日食べた『チョコケーキ』に使われるチョコレートなるものも、中毒性があるようだし)


 あの甘くてほろ苦い風味を思い出すと、シルヴィアも喉を鳴らしそうになる。

 王都の有名なスイーツショップでは、若い女性が列をなしてチョコレートを買い求めているという噂だ。


(チョコレート以外では、他には……そう……面白い本、『小説』のシリーズ……とか)


 そこまで考えて、足が止まった。


「どうしたんだい?」


 メルヴィンに声を掛けられ「なんでもありませんわ」と笑顔で答えたが、背中にじわりと汗をかいているのを感じる。


(まさか、いや、しかし……)


 その可能性について、メリーローズに報告したかったが、今彼女はアルフレッドの隣を歩き会話がはずんでいる。


(とりあえず、急いで報告しなくてもいいか。今日、部屋に戻ってからでも……)


 再び澄ました顔に戻り、皆の後ろをシルヴィアは歩いた。



「ところで、さっき言っていた『お役目』って、何だい?」


 アーネストがミュリエルに質問する。


「お役目?」


 校門で合流したアルフレッドたちは、その話は初耳だった。


「いや、今日お参りに行くのは、ミュリエル嬢が『お役目』を果たせるようお祈りに行く、と先ほどメリーローズ嬢が仰っていたんだ」


 アーネストはメリーローズから見ると先輩であるが、身分はメリーローズが上ということで敬語を崩さない。


「へえ、どんなお役目なんだい?」


 メルヴィンも興味を惹いたようで質問する。


「はい。元々この学院に入るきっかけになったことなんです」


 ミュリエルは先日と同じ話をアーネストたちにも説明した。


「奇跡を起こしたのか。すげえなあ、へええ」


 フィルバートが素直に感嘆すると、フェリクスも頷く。


「『禁断の温室』のことは知ってたけど、『奇跡のバラ』に蕾がついたことは知らなかったよ。兄様は聞いてた?」


 その時、アルフレッドの指がピクリと動き、隣のメリーローズの手に触れた。


「い、いや。僕も知らなかった」


 そう言いつつも目が泳ぎ、明らかに挙動不審になっている。


(これは、アルフレッド様は知っているのね。でも嘘がバレバレ、可愛い)


 その様子を後ろから見ていたシルヴィアも嘘に気がついた。


(もしや、アルフレッド様は『奇跡のバラ』が咲いた後、どんな奇跡を起こそうとしているのか、ご存じなのでは)

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