045-2
(階段から落ちてから、ミルドレッド様が明らかに別人になってしまった。何が起きたというの)
クローディアは真っ青な顔で、嬉しそうにアルフレッドの背中に抱き着くミルドレッドの後ろを付いていく。
(頭を打った? ……でも、それだけで人格まで変わるかしら。そうでなければ……)
そこまで考えて、背筋にゾクリと冷たいものが走った。
(まさか……『魔物』に、憑りつかれた?)
クローディアは、人には言えない背徳を隠している。
誰にも見せることのできない、ミルドレッドに知られるわけにいかない、怪しい本を持っている。
自分が階段を落ちたときは、そんな本を持っているせいで罰が当たったのではないかと思った。
そして同じ場所で今度はミルドレッドが落ちて、何と魔物に憑りつかれてしまった!
やはり、あの本が魔を呼び込んだのに違いない。
なぜなら……
(わたくしは今現在、まさにその本を、持ち歩いているのだから……!)
やはり、読んではいけないものだったのだ。
大精霊の子孫である女王陛下が禁じた内容なのだから。
それなのに、なぜ自分は、わざわざその危険な本を持ち歩いたりしてしまったのだろう。せめて部屋に置いてくればよかった。
(だって、とても魅力的なんですもの……)
でも、それこそが魔物の罠なのだと、クローディアは今更ながらに気づいた。
「じゃあ、僕はここで失礼するよ。誰か助けを呼んでこようか?」
王家や婚約者の実家と対立している家の娘に対しても、徹頭徹尾、親切設計のアルフレッドである。
「はい……ありがとう……ございました……」
しおらしい顔で礼を言うミルドレッドは、女子寮の玄関でアルフレッドを見送った後、クローディアにニヤーリと笑いかける。
クローディアが自分に怯えていることに、気がついているようだ。
「ねえ、クローディア?」
「は、はい」
「わたくしの怪我が本当は大したことなかったって、アルフレッド様にも誰にも、言わないでね」
「は、はい」
「もし告げ口したら、どうなるか……わかっているわよね?」
「は……はいい」
バサッ!
恐ろしさの余り体が強張ったクローディアは、つい手に持っていたものを落としてしまった。
「あらあら、落としたわよ。…………何、これ?」
「あ、それは」
急いで拾おうと屈んだが、ミルドレッドの方が早かった。
いつもの彼女なら、こんなに早く動くことはない。
(魔物に見つかってしまった! もうお終いだ!)
泣きべそをかきだしたクローディアをよそに、ミルドレッドが拾った本をパラパラとめくる。
「……ふうーん…………なるほどねえ」
そして再びニヤリと笑うと、言った。
「この本、どこで買ったのかしら?」




