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044-2

「キャアアア!」


 絹を引き裂くようなミルドレッドの悲鳴が響き渡る。

 いつもは小声のミルドレッドの、このような大声を聞いたのは誰にとっても初めてだろう。


 階段の踊り場から一番下まで落ちたとなれば、たとえカーペットが敷いてあろうと、結構なダメージを受けるはずだ。

 ダンスが得意で、それなりに体を鍛えているクローディアでさえ、足に怪我を負った。

 いや、むしろ捻挫で済ませることができた、と言った方がいいだろう。


 普段から動きのとろいミルドレッドなら、受け身もできずに転げ落ちたと考えていい。


「ミルドレッド様が落ちた!」


「ブロムリー公爵令嬢が、階段から落ちたぞ」


「まさか、あいつが突き落としたのか?」


 その場にいた学生たちの目が、一斉にクローディアに集中する。


「ち、違う……」


「あいつだ!」


「彼女が犯人だわ!」


 クローディアの声は、学生たちが口々に発する怒声にかき消された。


(終りだわ……)


 涙があふれて景色が滲む。

 クローディアは齢十六歳にして、自分の人生は詰んだと思った。


 やはり、()()()()を好んで読んでいたせいで、罰が当たったのだ。


 その時、大怪我を負ったと思われたミルドレッドが、むくりと起き上がる。

 その様子は、いつもの彼女とは何かが違っていた。



「いったたたた……」


 腰をさすりながら、ミルドレッドが立ち上がった。


「ふえー、この高さから落ちて、この程度の痛みかあ。……うん、若い体っていいわあ」


「……え?」


 普段とは違うミルドレッドの様子に、クローディアが瞬きをする。


「なあに? どうしたの、クローディア?」


 ミルドレッドは見たこともないような、不敵な笑みを浮かべた。

 クローディアが答える前に、集まっていた他の学生たから質問が集中する。


「ミルドレッド様、お怪我はございませんか?」


「いいえ、ちょっとあちこち打ち身をしたかもしれないけど、大したことはないわ」


「あいつが突き落としたんですよね?」


 クローディアを指した男子学生に、苦笑して否定した。


「いいえ、自分で足を踏み外したのですわ」


「彼女を、庇っているわけではないのですか?」


「いいえ、もしクローディアが突き落としたなら、ちゃんとそう言いますわ」


 震えながら見ていたクローディアが我に返り、ミルドレッドに駆け寄る。


「あっあの、本当に大丈夫ですか?」


「ええ。でもちょっと(あざ)ができそうね。医務室に付き合ってくれるかしら?」


「は、はい!」


 あっけにとられている学生たちに「ごきげんよう」と挨拶し、ミルドレッドはその場を後にした。

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