044 公爵令嬢のライバル令嬢、階段から落ちる
さて、クローディア・パクストン伯爵令嬢の階段落下事件である。
メリーローズたちは一方的に「一件落着」としてしまったが、当人には何が原因で誰が起こしたものなのか、何一つ伝わっていない。
わからないまま、誰もいないはずなのに、後ろから背中を押されて階段を転げ落ち、怪我をしたクローディアにとっては、気味が悪いことこの上ない。
おまけに「確かに、誰かに押されたのよ!」と主張すればするほど、「他人の目を引きたいのね」と残念な人扱いされて、これまた腹立たしいこと、この上ない。
実のところクローディアは心の奥底に、「これは精霊からの罰を受けているのではないか」という考えが浮かび、それを否定したいという思いが強かった。
(あんな本を持っているからといって、いちいち罰なんて当たるわけがないわ)
そんなわけで、今日も今日とて、事件が起きた現場である階段に、取り巻きをしているミルドレッド・ブロムリー公爵令嬢を引っ張って来ていた。
……一応断っておくが、ミルドレッドの方が身分は上である。
あくまでクローディアはミルドレッドの取り巻きである。
しかし実情は、ミルドレッドの気の弱さをいいことに、クローディアの方がミルドレッドを振り回していることが多い。
クローディアはミルドレッドより、自分の方が優秀であると決めつけていた。
自分の方がミルドレッドより頭がよくて、ミルドレッドより美人だと思い込んでいる。
実際は、ミルドレッドの成績が学年四位であるのに対し、クローディアは二十位だし、美人かどうかは人それぞれの好みがあるが、目鼻立ちがはっきりしているクローディアより、妖精のように儚げな雰囲気のミルドレッドを好む男性もそれなりに多い。
しかし両親から蝶よ花よと育てられ、「お前は世界一美しい娘だ」という親の欲目に満ちた言葉を信じて育ったその果てに、クローディアは自信とプライドの塊のような娘に育った。
彼女は考える。
(わたくしがミルドレッドのようなグズな女の取り巻きなどをしているのは、公爵家とのつながりを持てば、この先の人生に有利だからよ)
公爵家とコネを持ち高位貴族の仲間に入り込めば、自分の美貌に気がついた殿方から、ひっきりなしに求婚されることだろう。
(それには、この高等学院に在学している間に、上手く立ち回ることだわ)
そう考えていた矢先の、階段落ちである。
まさに出鼻をくじかれたクローディアだった。
(見てらっしゃい。原因究明して、汚名を返上してやるんだから)
そのはずだった。
なのに、愚図なミルドレッドがその思惑を壊してしまった。
つまり、ミルドレッドが階段から転げ落ちてしまったのである。




