042-4
「実際あのときは驚いたな。背中に相当の衝撃があるだろうと覚悟していたのに、まったくその瞬間が訪れなかったのだから」
ランドルフが苦笑しながら溜息をついた。
「それはつまり、魔法の力が働いたというわけですね。ランドルフ先生は魔力持ちだったのですか」
「……いいえ。今も昔も、私には魔力はありません」
シルヴィアの問いに、ランドルフが答え、フェリクスが続けた。
「そう、僕です。無意識のうちに僕の魔力が発動したのです。そしてそのせいでランドルフ先生は、僕の剣の師匠の仕事も、士官候補生としての立場からも、退かなければいけなくなってしまったのです」
「え? どうしてですの?」
「フェリクスは王子です。当然魔力などあるはずがない……あってはならないのです。そこで、魔法を使ったのは私ということになり、士官学校に入学する際『魔力持ちではない』と申請していたことで虚偽罪に問われ、退学になってしまったのです」
「まあ!」
「……なんと!」
メリーローズもシルヴィアも、絶句した。
「先生、ごめんなさい! 僕のせいで」
フェリクスの両手が、ランドルフの手を握る。
すかさずメリーローズの目が光った!
すかさずシルヴィアがメリーローズを肘で突いた!
「いいんだ、君を守るためならば、そんなこと、どうってことはない」
「……先生!」
二人は至近距離で見つめ合った。
すかさずメリーローズの目がキラキラ光った!
すかさずシルヴィアの手がメリーローズの背中をどついた!
「しかし、人の口に戸は立てられないというか、目撃していたメイドたちを中心に『魔法を使ったのは僕じゃないか』と噂がたったのです」
「でも、フェリクス様は王族。普通なら魔力持ちの可能性は、ございませんよね。それをメイドが疑ったのですか?」
シルヴィアの攻撃に耐えながら、メリーローズが質問する。
「長く王宮で働いているメイドなら、父のしたことを知っている者もいます。……そして魔力を発動させたせいで、僕も自分の秘密に気づくことになりました」
「あ、先ほど話されていたことでしょうか? 女王陛下のお子ではない……という」
辛そうに俯いたフェリクスの代わりに、ランドルフが説明した。
「そうです。私も軍部の研修を受けていたので知っていたのですが、フェリクスはベネディクト王婿が、他の女性との間に儲けられたお子です。女王はそのことを承知でお手元に引き取り、ご自分が産んだ子供であると国民に発表したのです」
「僕の処置について、色々な意見が出たと聞きました。もしかしたら場合によっては、僕は産みの母と共に、闇に葬られていたかも知れないのです。それを防ぐために、女王陛下が先回りして、自分の子であると宣言されたのです」
(えっぐー。王家、えっぐー)
さすがのメリーローズも、罪のない子供の命の扱いにドン引きした。
(でも、自分の夫が浮気して生まれた子を、女王陛下が盾になって守ったってわけね。女王……推せる!)
「それにしても、軍部にいたからフェリクス様の事情を知っていたとは、どういうことでしょうか?」
メリーローズが女王推しになっている間に、シルヴィアが聞いた。
「それは…………」
チラリとフェリクスを見ながら、言いにくそうにランドルフが答える。
「戦争や災害などが起きた場合を想定し、王族や高位貴族の中でも守るべきお方について、順位が決まっているのです」
「順位……」
メリーローズが、またピクリと反応した。
「はい。まず絶対に女王陛下。次にその跡継ぎであるヴィンセント王太子、次いでアルフレッド第二王子。その次がベネディクト王婿で、フェリクスはその次となっていました。このことから、軍部のある程度上の地位にいた者やその候補生は、察するところがあったのです」
(えっぐー。軍部、えっぐー)
やはりメリーローズがドン引きすることになった。
(命のトリアージってやつ? まあ、わかるけどさあ、わかるけど! こうして命に順番がつけられてるって聞いちゃうと、リアルにエグいなあ)




