042-2
* * *
僕は幼い頃、ローデイルの第三王子として、何不自由ない生活を送っていた。
自分の身分や立場に疑問を持つことなど、考えもしなかった。
考えてみれば、僕にとって一番幸せだった時代かも知れない。
五歳になった頃、剣の練習を始めることになった。
僕の二人の兄――ヴィンセント兄様とアルフレッド兄様も、五歳になると剣の練習を始めたと聞く。
僕はその当時、健康だった。
いくら走り回っても、剣を振り回しても、一晩眠れば体力は戻る。
同じくらいの年齢の、他の子供たち同様に。
剣の教師として、士官候補生の中でも特に腕が立つと言われていた、ランドルフ・ソーントン先生がやってきた。
未熟で幼い子供にしては、立派過ぎる教師をつけてもらったと思う。
でも一国の王子ともなれば、小さいうちに正しい基礎を教え込まねばならない。
それが両親――エメライン女王とベネディクト王婿のお考えだった。
僕はその頃には、家庭教師がついて勉強も始めていた。
だからこの国の成り立ちや社会の構成など、基本的なことを多少は知っていた。
その中には、王族や高位貴族には「魔力」はない、ということも含まれていた。
物語に出てくる人物、農民や猟師といった主人公が、魔法を使う場面が時々あったのを覚えている。
それが大層羨ましかった。
そこで家庭教師に言った。
「僕も魔法を使いたい。王子でも、使えるようになる方法はないの?」
家庭教師は苦笑いしながら教えてくれる。
「王子様。高貴な身分の者は、魔法は絶対使えません」
「どうして?」
「あれは下々の者にだけ、発現する力なのです」
それを聞いたとき、僕はどれほど落胆しただろう。
「つまんないの。そんなんだったら、僕、王子様じゃなくてもいいや。魔法を使えるようになりたいもん」
すると、いつもは穏やかな家庭教師の顔が、一変する。
「もう二度と、そんなことを仰ってはいけません! 魔法が使えないのは、名誉なことなのです! 王族としてこの国の民を導く立場におられる方が、魔法を羨むなど、あってはならないのです」
その後、気がついたら僕の部屋の書架から、魔法が出てくる物語の本が、全部消え失せていた。
本が消えているのに気づいた日、泣きじゃくっていた僕を慰めてくれたのは、アルフレッド兄様と、ランドルフ先生だった。
アルフレッド兄様は、「魔法が使えない代わりに、僕たちには他の力があるよ」と言った。
「他の力?」
「僕たち王族が持っている力さ。でもね、その力を持つ代わりに、僕たちは守らなければいけないことがある」
「守らなければいけないこと……」
「同じように、魔法の力を持つ人たちにも、守らなければいけない規則があるんだ。そしてね、一人の人間が持ってもいい力には限度があるんだよ」
「それって、王族の力を持っていたら魔法の力を持っちゃいけないし、魔法の力を持っていたら、王族の力を持ってはいけないの?」
「そう! さすがフェリクスだ。賢いなあ。だからね、王族に生まれたからには、僕たちは魔法の力を持とうとしてはいけないんだよ」
* * *
思い出を話すフェリクスの目には、うっすらと涙が浮かんでいたが、同時にメリーローズの瞳にも涙が浮かんでいた。
しかし、その理由は大きく隔たっていたようである。
(さすがはアルたん! フェリクス様も賢いけど、当時のアルたんって、七歳? 八歳? 天才だわー。人としても、受としても。包容力パネェ!)
「はい、黙って聞く」
メリーローズの腐思考に気づいたシルヴィアが、背中から小突いた。




