042 公爵令嬢、ランドルフの過去に迫る
(ランドルフー。そのたくましい腕は、わたくしの首を捻るのではなく、アルたんの細腰を抱き寄せるのに使ってー)
腐り妄想で、目の前の恐怖から逃避しようとしているメリーローズを、フェリクスが庇った。
「ランドルフ先生。メリーローズ嬢を怖がらせるのはやめてください」
「フェリクス、しかし」
「彼女はアルフレッド兄様の婚約者、将来は王族の一員となる方です。遅かれ早かれ、いつかは知ることですから」
この短い会話の中から、シルヴィアは二人の関係性を推測した。
(『ランドルフ先生』、魔法学を受講していないフェリクス様がそう呼ぶということは、以前何かしらの知識や技術の教えを受けていたということ。それにソーントン先生が『フェリクス』と呼び捨てにするのを許しているとは、かなり親しい間柄ということだな)
主であるメリーローズがBL妄想に現実逃避している間に、シルヴィアは情報を分析している。
メリーローズは情報分析できない分、フェリクスの情に縋ることにした。
「フェリクス様、ありがとうございます。お話を立ち聞きしてしまって、申し訳ございませんでした」
「いいんです」
「ソーントン先生にも、謝罪いたしますわ」
「いえ、こちらこそ。ご婦人方を怖がらせてしまって、申し訳ございません」
とりあえずその場がどうにか収まったのを見て、シルヴィアが切り出した。
「あの、お聞きしてもよろしいでしょうか。お二人はどういったお知り合いなのでしょう?」
それを聞いたランドルフとフェリクスの間に微妙な空気が流れたのを見て、付け加える。
「勿論、仰りにくいことでしたら、結構でございます。ただ、フェリクス殿下がお悩みの様子でしたので、何かお力になれれば、と思っただけでございますから」
フェリクスはちらりとランドルフに視線をやった後、意を決したようにぽつり、ぽつりと話始めた。
「ランドルフ先生は、本来この学院で『魔法学』なんて教えているべき方ではないんです。元はローデイル陸軍将軍の嫡男として将来を嘱望された方で、その剣の腕前から、僕たち王家の子供に剣を教えてくださっていたのです」
(ああ、そうだった、そうだった!)
フェリクスの話を聞きながら、メリーローズもゲームの設定を少しずつ思い出す。
シルヴィアの軍人か兵士のよう、という評価は、まさにその通りのものであった。
しかも王子に剣を教えるとなると、腕前だけでなく人柄、思想などにおいても、信頼がおける人物であると評価されたと考えていい。
(それほどの人が、どうして今はこんなことをしているんだったかしら……うーん)
メリーローズの記憶はなかなか戻らない。恐らく、アル受けにはあまり関係がない情報だったのだろう。
「それで、どうして今はこの学院の教師をされていらっしゃるのでしょうか?」
「うん……」
シルヴィアの問いに対し、フェリクスが少しずつ彼らの事情を話し始めた。




