041-2
ドアの横に、部屋と廊下を隔てる木枠の窓がある。
(前世の、昭和の設定の教室の作りに似ているわね)
メリーローズはドラマに出てくる場面に、こんな作りの校舎があったことを思い出していた。
その窓に少しだけ隙間があるのを見つけ、二人で覗いてみる。
「やはり、君だったのか」
「はい……」
「正直に申し出てくれて、嬉しいよ」
「僕は、してはいけないことを……してしまいました」
「ああ。……だが、幸いにも彼女は軽傷で済んだ」
「運がよかったのです。もし打ち所が悪ければ……」
「そうだな……。そのときは、私が学長に報告しなければいけなかった」
デスクの肘掛け椅子に、ランドルフが座っている。
その向かいの丸椅子に、肩を落として座っているのは――フェリクスであった。
思わず声を出しそうになり、互いの口を慌てて塞ぐ。
(ふ、フェリクス殿下ー!)
(な、なんで? なんで彼がここに?)
話の内容から察するに、ランドルフは例の事故が、フェリクスによるものだと知っていたらしい。
しかしいつ、どうやって知ったのだろうか。
食堂では知らなかったように見えたのだが。
そして王族のフェリクスと、閑職に就いているランドルフは、どういう知り合いなのだろうか。
フェリクスが「魔法学」の教師に罪の告白をしに来ていて、更にその教師がクローディアを突き落とした方法を知っているということは、やはりあれは魔力によって引き起こされた事故、いや事件だったと考えて間違いない。
「とりあえず、謎が一つ判明しましたね」
「ええ」
しかし、一つ謎が消えれば、新たな謎が生まれてくる。
フェリクスは、なぜ王族でありながら、魔力を持っているのだろうか?
二人はまた窓に貼りついて中の様子を窺う。
「僕はこの国の王子失格なのです。元々、女王陛下の血を引いていないのですから」
「いいえ。陛下はすべてご存じのうえで、あなたをご自分のお子として引き取られました。第三王子として、胸を張るべきです」
「「!」」
再び、互いの口を慌てて塞いだ。
「じ、女王陛下の血を引いていない?」
「じゃあ、誰の子供……ベネディクト王婿?」
「ベネディクト王婿が、浮気したってことー?」
女王夫妻の仲のよさは、国中が知っているし、なんなら他国にも鳴り響いている。
「王婿が他の女性に産ませた子を、女王陛下がご自分が産んだと発表したのでしょうか」
「あんなにカルガモ夫婦っぷりをアピールしていたのに!」
「カルガモ夫婦って何ですか?」
「間違えた、おしどり夫婦だ」
いくら小声であっても、これだけ漫才を続けていたら、さすがに気配が漏れたようである。
「そこにいるのは、誰だね?」
ランドルフの声だ。
「しまった、隠れましょう」
「今更遅い! こうなったら堂々と出ていく方がマシだわ」
「失礼します」
メリーローズは必死で気持ちを落ち着かせ、ドアをノックして入室する。
「……メリーローズ嬢……!」
想い人の登場に、フェリクスが動揺したが、ランドルフは落ち着いていた。
「何か用事だったかな? そこの君、マコーリーくんは魔法学を受講しているが、ランズダウンくんは違うはずですね?」
「あ……あの、ちょっとご相談があって……」
「何でしょう」
「先日、我が家の庭で起きた魔物騒ぎの件なのですが」
「高位貴族の方にも魔力を持っている人がいることについて」
メリーローズとシルヴィアが、全く違うことを同時に言ってしまって、ランドルフには何と言っているのか聞き取れなかったらしい。
(しまった。シルヴィアと話しをすり合わせておくのを忘れてた)
「はは……、一人ずつ順番にしてくれないか? …………と言いたいところだが、その前に、私たちの話をどこまで聞いたのかな?」
穏やかな笑顔を見せるランドルフだが、瞳の奥がキラリと光る。
改めてランドルフを間近で見ると、以前シルヴィアが評した通り、教師というよりは軍人か兵士のようで、シャツの上からでも感じられる筋肉パツンパツンの腕にかかれば、メリーローズやシルヴィアの細い首など、キュッと一捻りされそうだ。




