041 公爵令嬢、王家の秘密に迫る
ランドルフの控え室は、魔法学が行われる旧校舎の二階にあった。
そこに向かいながら、シルヴィアはふと気づく。
(そういえば、前にこの辺りを歩いたときは、そこかしこに邪気を感じたものだったが……)
今もよく感覚を研ぎ澄ませれば感じ取ることができるが、以前ほどではない。
更に言えば、前はミュリエルもしくはヘザーからも濃い邪気を感じたものだったが、現在は少し薄まっている。
(なぜだろう。もしかして、お嬢様のBL本が以前ほど売れていない……とか?)
チラリとメリーローズを見ると、目が合った。
「なあに?」
「あ、いえ。……あれからファンレターは届いているんですか?」
「もっちろんよー! もう寮の部屋には置いておけなくて、実家の部屋に、大きな鍵付きの箱を用意して、そちらに入れるつもりよ」
(……考えすぎか)
調べなければいけないことがまた増えた。
邪気が弱くなっているのはなぜか。
ミュリエルが期待されている「奇跡」とは何なのか。
ヘザーとアデレイドが取引しているモノは何なのか。
そして――本当にフェリクスが「魔力」を使ってクローディアを突き落としたのか、どうか。
「ソーントン先生」
シルヴィアがドアをノックしようとしたとき、部屋の中から話し声が聞こえてきた。
(先客かしら?)
メリーローズが囁く。
(誰でしょうね)
ランドルフが受け持つ「魔法学」は、あまり人気の授業とは言えない。
そもそも「魔力」を持っているとされる学生だけが集められ、持っていない学生は受講資格さえないが、受講したからといって特にメリットもない。
シルヴィアが受講して感じた通り、「大精霊教」に対する存在としての「魔力」の価値を卑小化するのが狙いなのだから、自然と重きを置かれなくなる。
授業が行われる教室が、普段他の授業では使われない旧校舎であったり、その教師をしているランドルフの控室が同じく旧校舎の中にあるのも、同じ理由なのだろう。
メリーローズが、ランドルフがこの学院にいることについて、「本人が自主的に望んできたのではない」、「この授業を受け持っているのも、仕方のない事情があったのだ」と言っていたことを思い出した。
それにしても、そういう事情を考えると、ランドルフにわざわざ質問にくる学生などいないはずなのだが、では今、中で会話をしているのは、誰なのだろうか。




