表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/91

040 公爵令嬢、休日の予定を立てる

 翌日はちょうど午後に「魔法学」の授業がある日だった。

 授業の終わり時間を見計らって、メリーローズが教室にやってくる。


「あーっ! メリーローズ様ぁ!」


 授業中、睡眠をとって絶好調になったアデレイドが、メリーローズを見つけて元気に手を振った。

 その声に気がついたミュリエルも、にっこり笑って会釈してくる。

 ミュリエルの隣のヘザーも、笑顔こそ作らないが小さく頭を下げた。


「今日はどうしたんですかー?」


 嬉しそうに聞いてくるアデレイドに、「あなたをダシに使うの」とは言えず、曖昧に笑う。


「先日、ランズダウン邸の庭に魔物が出たという騒ぎがあった件で、ソーントン先生へ質問しに来られたのです」


 嘘も方便とばかり、堂々とシルヴィアが答えた。


「ええっ! 魔物が出たんですかあ?」


 アデレイドの表情が恐怖で凍りつく。

 一緒にいたミュリエルも恐ろしげに眉を顰めたが、ヘザーは相変わらず無表情だった。


「いえ、魔物じゃないかって騒ぎになっただけですの。後で司教様に見ていただいたし、魔除けの結界もはっていただいたので、もう大丈夫なのですが……」


 言いながらメリーローズは(アデレイドをだしにしなくても、このセンでいいのでは?)と考えた。


「メリーローズ様」


 そこにミュリエルが真剣な眼差しで、声をかけてくる。


「え? な、何かしら、ミュリエルさん」


(まさか、一緒に来るとか言い出さないわよね?)


 一瞬不安になったが、ミュリエルは全く違う考えを持っていたようだった。


「もし魔物がお家に出たとしたら、もしかしたら『大精霊教』への信心が足りないのかも知れません。今度、私と一緒に王都の大きな聖堂にお参りに行きましょう!」


(うん、わたくしには全くない発想だわ)


「そうね、いいかも知れませんわ。でも、ミュリエルさんも何か、不安なことがおありですの?」


「はい。実は……」


 先日はアデレイドの邪魔が入ったために、聞くことができなかった「ミュリエルがこの学院に入ることになったきっかけ」を、図らずも本人から教えてもらう形になった。



「あの、私がこの学院に入ることになったのは、私が奇跡を起こした、と地元の司教様に言われて、その話がその、恐れ多くも大司教様や宰相様のお耳に入ったそうで……」


「ええー! すごいですねえ!」


 素直にアデレイドが感嘆の声をあげる。


(わたくしが直接地元に行って、評判を聞きまわったことまでは知らないようだな)


 こっそりシルヴィアが胸をなでおろした。


「本当に私は、そんな大層な者ではないのですが、……それで、大司教様や宰相様から奇跡の力を期待されて、この学院に入るよう仰せつかったのです」


「充分、すごいことだと思います。それで、どんな奇跡を期待されていらっしゃるのでしょうか?」


 しめしめと、シルヴィアが話を進める。


「はい。宰相様からのお手紙によると、王宮の中に限られた方しか入れない『禁断の温室』があって、そこに奇跡を起こすバラがあるそうなんです」


「『禁断の温室』……。聞いたことはありますわ。わたくしも入ったことはありませんが、その存在は存じています」


 メリーローズの言葉を聞いて、意外にもヘザーが反応した。


「ほほう。さすがは第二王子殿下のご婚約者。我々庶民はそんな話、聞いたこともありませんね」


「ふふん!」


 なぜかアデレイドが偉そうに笑った。


「いえ、わたくしも温室のことしか知りませんわ。『奇跡を起こすバラ』の話は初耳です」


 そう言いつつ前世の記憶をたどる。


(『奇跡のバラ』。……そういえば、ゲームのタイトル『レジェンダリー・ローズ』の名前の由来だわ。忘れてた。てへ)


 ミュリエルは悲しそうに俯き、話を続ける。


「大司教様や宰相様は、私の力で、その『奇跡を起こすバラ』を咲かせて欲しいと望まれているようなのです。でも、最近そのバラの花の蕾の成長が止まってしまったとかで……」


「奇跡って、何を起こすつもりなんでしょうねえ? その偉い方々は」


 ヘザーが興味津々といった様子で、ミュリエルにズズッと迫る。


「そこまでは聞いていないの。何か、ローデイル王国にとって、とても大事なことらしいのだけど……」


(……そう、そうだった。奇跡のバラで、何か大事なことを願うんだった。…………何だったかなあ)


 もう何度もプレイしたはずのゲームの、根幹に関わることであるはずなのに、何も思い出せない。


(所詮、腐った女(わたし)にとって興味があったのは、アルたんとそのダーリンズの恋模様だけだからなあ)


 断っておくが、ゲームの中にアル受BLルートは存在しない。

 まったく存在しない。


「それでその、『早くどうにかできないのか』と、学院を通してお叱りを受けていまして……」


「まあ、それは肩身の狭いことでしょうね」


「そうなんです……」


 ミュリエルと、彼女に同情するメリーローズの会話を聞きながら、シルヴィアは鼻白んだ。


(こんな小娘に国家の問題を押しつけていないで、大層な肩書をお持ちの方々が、もっと頑張ればよろしいのに)


「ああ、それで一緒にお参りに行こうと仰ったのね」


「はい、そうなんです」


「じゃあー、こんどのお休みの日、皆で行きましょうよ!」


 アデレイドがピクニックにでも行くように提案してくる。


「アデレイド様、ミュリエル嬢にとっては遊びではありませんから……」


 慌ててシルヴィアが止めたが、当のミュリエルの表情が明るくなった。


「いいアイデアですね! 皆さまでご一緒しませんか!」


「大精霊様にお祈りを捧げるのは、皆さまにとっても悪いことではございません。聖堂でお祈りをすると、私はいつも心が洗われるんです」


「いいんじゃないですか?」


 ヘザーも賛成する。


 というわけで、今度の日曜日に大聖堂へお参りに行くことが決定し、メリーローズとシルヴィアは皆と別れてランドルフ・ソーントン教師の部屋に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ