037-2
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「ほら、起きて。やっぱすぐ帰った方がよかったんじゃない? ゆうべ完徹だったもんね」
ん……誰?
目を開けると、やけにザワザワした見覚えがある店内。
あれ? ここ、どこだっけ。
「やだ、寝ぼけてるの?」
あれ、ヨッちゃん?
ここ、イベントの後にいつも寄る、新橋の焼き鳥屋だ。
そうだ、冬コミが終わって、打ち上げに来てたんだ。
「んー、なんか夢見てた……」
「もう、大丈夫? そろそろ帰ろっか」
「うん」
会計を済ませて、外に出る。
アルコールで火照った顔に、ひんやりとした冬の空気が心地いい。
「今年ももう終わりだね」
「明日は職場の大掃除だ。うえー」
「実家、いつ帰る? 一緒に帰ろうよ」
「そだね。新幹線の中で、次の新刊の打合せもできるしね」
「今日コミケ終わったのに、もう次? うちらアルたんのこと、好き過ぎじゃない?」
たわいもない会話。
いつもの、ヨッちゃんとの会話。
「ゲーム、やってる?」
「うん、やっぱネタ思いつくのって、プレイ中が多いしね」
「ミュリエルが誰ともくっつかない『失敗ルート』を選びたいのに、なかなか上手くいかないんだよねー」
「わかる。ちょっと気を抜くと、すぐアルたんとくっつこうとするし」
「そういう時は、あいつが出てくると、『やった!』ってならない? いい感じに邪魔してくれて、マジで救世主だよね」
「あの子でしょ? 悪役令嬢のメ
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「しっかりしてください! メリーローズ様あ!」
(ん……、メリーローズ? 誰のこと?)
「メリーローズ、僕だよ。わかるかい?」
(アルたんの顔が超アップで見える。何ここ、天国?)
「メリー、大丈夫かい?」
(おまけにメルヴィンまで。うほーい! …………)
メリーローズはここでやっと我に返り、ガバッと起き上がった。
「こら、そんなに勢いよく起きたら、また倒れるぞ」
メルヴィンの腕が伸びて、体を支えてくれる。
「え? 倒れ……?」
ゆるゆると記憶が蘇ってきた。
(そうだ、食堂でクローディアが事故に遭ったって聞いて、そして…………)
フェリクスの顔を思い出す。
同級生が怪我をしたという知らせを聞いて、なぜか笑みを浮かべていたフェリクスを。
背筋に悪寒が走り、両腕で自分の体を抱きしめる。
怖くて顔を上げられないが、多分この場にフェリクスもいるのだろう。
あのとき一緒にいた皆が、自分の近くにいるのがわかる。
「お熱はないようですね」
医務室付きの医師が、声を掛けた。
「お顔の色が悪いので、貧血を起こしたのだと思われます」
そのとき鐘の音が響いた。午後の授業が始まる合図だ。
「よし、午後に授業を取っている者は、教室に向かうんだ。ここは俺だけでいい。勉学を疎かにしてはいけないぞ」
メルヴィンの言葉に、メンバーたちは三々五々医務室を後にした。




