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037-2

 * * *


「ほら、起きて。やっぱすぐ帰った方がよかったんじゃない? ゆうべ完徹だったもんね」


 ん……誰?

 目を開けると、やけにザワザワした見覚えがある店内。

 あれ? ここ、どこだっけ。


「やだ、寝ぼけてるの?」


 あれ、ヨッちゃん?

 ここ、イベントの後にいつも寄る、新橋の焼き鳥屋だ。

 そうだ、冬コミが終わって、打ち上げに来てたんだ。


「んー、なんか夢見てた……」


「もう、大丈夫? そろそろ帰ろっか」


「うん」


 会計を済ませて、外に出る。

 アルコールで火照った顔に、ひんやりとした冬の空気が心地いい。


「今年ももう終わりだね」


「明日は職場の大掃除だ。うえー」


「実家、いつ帰る? 一緒に帰ろうよ」


「そだね。新幹線の中で、次の新刊の打合せもできるしね」


「今日コミケ終わったのに、もう次? うちらアルたんのこと、好き過ぎじゃない?」


 たわいもない会話。

 いつもの、ヨッちゃんとの会話。


「ゲーム、やってる?」


「うん、やっぱネタ思いつくのって、プレイ中が多いしね」


「ミュリエルが誰ともくっつかない『失敗ルート』を選びたいのに、なかなか上手くいかないんだよねー」


「わかる。ちょっと気を抜くと、すぐアルたんとくっつこうとするし」


「そういう時は、あいつが出てくると、『やった!』ってならない? いい感じに邪魔してくれて、マジで救世主だよね」


「あの子でしょ? 悪役令嬢のメ


 * * *


「しっかりしてください! メリーローズ様あ!」


(ん……、メリーローズ? 誰のこと?)


「メリーローズ、僕だよ。わかるかい?」


(アルたんの顔が超アップで見える。何ここ、天国?)


「メリー、大丈夫かい?」


(おまけにメルヴィンまで。うほーい! …………)


 メリーローズはここでやっと我に返り、ガバッと起き上がった。


「こら、そんなに勢いよく起きたら、また倒れるぞ」


 メルヴィンの腕が伸びて、体を支えてくれる。


「え? 倒れ……?」


 ゆるゆると記憶が蘇ってきた。


(そうだ、食堂でクローディアが事故に遭ったって聞いて、そして…………)


 フェリクスの顔を思い出す。

 同級生が怪我をしたという知らせを聞いて、なぜか笑みを浮かべていたフェリクスを。


 背筋に悪寒が走り、両腕で自分の体を抱きしめる。


 怖くて顔を上げられないが、多分この場にフェリクスもいるのだろう。

 あのとき一緒にいた皆が、自分の近くにいるのがわかる。


「お熱はないようですね」


 医務室付きの医師が、声を掛けた。


「お顔の色が悪いので、貧血を起こしたのだと思われます」


 そのとき鐘の音が響いた。午後の授業が始まる合図だ。


「よし、午後に授業を取っている者は、教室に向かうんだ。ここは俺だけでいい。勉学を疎かにしてはいけないぞ」


 メルヴィンの言葉に、メンバーたちは三々五々医務室を後にした。

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