035-2
というわけでやってきた午後のティータイム。
やはりフェリクス殿下は、女子の中に完全に溶け込んでいる。
周りを敵に囲まれたと思い込んでいるメリーローズも、相変わらず引きつった笑いを振りまいていた。
一方シルヴィアは、夕べこそメリーローズの理屈に納得してしまったが、睡眠をとり、朝食と昼食を食べ、今もお茶の席でチョコレートケーキなるものをいただいている今、だいぶ頭が働くようになっている。
脳に十分な休息を与え、血液と酸素と糖分を送りんだ今なら、メリーローズの理論の穴に気づくことが出来た。
まず、ヘザーがミュリエルをアルフレッドと結びつけようと画策していたとして、同じくアルフレッドと自分の娘の縁を結ぼうとしているブロムリー公爵と、手を組むことはあり得ない。
メリーローズを婚約者の座から追い落しても、他のライバルの手助けをしては意味がないからだ。
それから、メリーローズをクスリ漬けにして、スキャンダルに持ち込もうという作戦にも、疑問が残る。
アデレイドを先にクスリの虜にして、彼女からメリーローズに「いいクスリがあるんですよ……」と勧めさせる作戦なのだ、と主張していたが、それも成功率から考えれば疑問だ。
メリーローズの説明によると、それらのクスリは、最初こそ気分がよくなるものの、次第に心身が蝕まれていき、知性が失われ精神が破壊される、恐ろしいものだという。
そんなものにアデレイドが侵されていれば、さすがにわかる。
見たところ、アデレイドからそんな危険なクスリを摂取している兆候は見られない。
(元が元だから、知性が失われているかどうかはよくわからないが……)
失礼なことをシルヴィアは考えた。
(精神が破壊されているとは思えない)
目の前にいるのは、いつもと同じ天真爛漫なアデレイドである。
(とはいえ、ヘザーとアデレイド様が、裏でコソコソと何かを取引していたことだけは、確かだ)
まずヘザーとアデレイドが、何を売買していたのか、それを確かめなければならない。
その内容如何によって、捨て置いてもいいかも知れないし、警戒を強めなければいけないかも知れないからだ。
そして、気になることが、もうひとつあった。
――フェリクスのことである。
「あの……メリーローズ嬢」
地獄の黒ひつじ殿下に名指しで声をかけられ、メリーローズの指がピクリと動く。
頬も小刻みに痙攣するが、小刻み過ぎて他の人からは認識出来ないほどだ。
「何ですの? フェリクス殿下」
「その……、僕は小さい頃体が弱くて、ずっと王宮の奥で育てられました」
「ええ、そう伺っておりますわ」
「それでも、王族として必要な教育を施してもらってきたと、思っています」
「はい、素晴らしいですわ」
「中でも、上に立つ者として『ノブレス・オブリージュ』を常に心がけるよう、教師だけでなく兄たちからも強く言われてきました」
「まったくもって、その通りですわ」
メリーローズはフェリクスを恐れるあまり、イエスマンならぬイエス令嬢になり果てている。
「あなたも……僕たち同様『ノブレス・オブリージュ』を心がけていると、聞いております」
フェリクスが、はにかむような表情をする。その頬にほのかに赤みが差しているのに、シルヴィアだけが気づいた。
そこに、最近教わった単語が会話の中に出てきたためか、アデレイドが嬉しそうに口をはさむ。
「そうなんです! メリーローズ様は、その『のぶ』を心がけているんです! わたくしにも、教えてくださったんです!」
興奮してメリーローズを称えるアデレイドに、本人は冷や汗を垂らしまくっていた。
(ちょ、ちょっと、アデレイド! 何を言い出すのよ! フェリクスは一番粗相をしてはいけない相手なのにー! ……はっ! もしかしてこれも、クスリの影響とか? もしくはクスリを売ることを担保に、わたくしを陥れる手助けをヘザーから強要されているのかも?)
ここまでくると、言いがかりも甚だしい被害妄想である。
しかし、メリーローズの心の叫びを知らず、アデレイドとフェリクスは顔を見合わせて微笑み合った。
「メリーローズ嬢は、本当に素晴らしい方ですね」
「はい! その通りです!」
フェリクスとアデレイドの会話に、焦っているのはメリーローズ一人で、ミュリエルも笑顔で頷いている。
「私もメリーローズ様には本当に助けられました。感謝してもしきれません」
そこに、和やかな空気を乱す人物が現れた。




