034-2
「さきほどの話の意味がわかったのですか?」
「ええ。間違いないわ。あれはドラッグの売買の現場よ!」
メリーローズは、前世での麻薬密売の説明をした。
「その、タイマとか、カクセーザイとかいう薬を、ヘザーがアデレイドに売りつけてるところを、我々は見てしまったわけですね?」
「そうよ。そういったクスリは、一度覚えると中毒になって、クスリなしでは生きられない体になるのよ」
先ほど切れ切れに聞こえてきた会話をその話に当てはめてみる。
――まさか、(クスリの売人が)あなたでしたなんて
――わたくし、もう(クスリ)なしに生きられない体になっ(てしまった)
――お金なら、いくらでも(払うから売ってちょうだい)
――とは言え、こちらも(クスリの)仕入れが
――無理、もう我慢出来な(いの)
――すっかり、(クスリの)中毒ですね。くすっ
「ガッデム! わたくしの妹分で、何も考えていない純粋無垢なアデレイドを、よくもジャンキーにしてくれたわね!」
「何も考えていないからこそ、悪に染まるときは一気に染まってしまうのでしょう」
「シルヴィア、さっきはごめんなさい。やはり、あなたが正しかったのだわ」
「しかし、お嬢様に近い人間をクスリ中毒にして、何の得が?」
「決まっているわよ!」
メリーローズは滔々と自説を披露する。
「ヘザーがこんなことをしているのは、ミュリエルのためよ。彼女をアルたんの嫁にするには、わたくしの存在が邪魔」
「そうでしょうね」
「そこで、わたくしを失脚させるため、危険なクスリの中毒患者にしようとした。王子の婚約者がジャンキーなんて、とんだスキャンダルですもの」
「なるほど」
だがそこで、シルヴィアには一つの疑問が浮かんだ。
「でもそのクスリは、すごく高価なものなのですよね? どこにそんな資金があるのでしょう。ヘザーの実家は、貧乏だと聞いているのに」
メリーローズの瞳が光る。
「そこよ。これは黒幕にブロムリー公爵がついているんだわ!」
「なんと」
「アルたんが言ってたでしょう? ヴィンセント王太子殿下の婚約者に自分の娘を推薦して、断られた話」
「はい」
「今度はアルたんの婚約者の座を狙っているのだわ!」
「なるほど」
ここで一つ断っておくならば、メリーローズもシルヴィアも、かなり疲労がたまっている状態だった。
特にシルヴィアは週末もヘザーの実家の調査に駆り出され、メリーローズの身の回りの世話もあって、自覚している以上の疲れが蓄積していた。
だから、メリーローズのこんな穴だらけの推理を、うっかり納得してしまったのである。




