033 公爵令嬢の取り巻きが怪しい?
週が明けて学院に戻ると、アデレイドが拗ねていた。
「メリーローズ様、最近生徒会室にばかり行って、つまらないですぅ。週末くらいはご一緒したかったのに、今度はお家に帰ってしまわれて、寂しかったですわ」
メリーローズと外出するために、自分は実家に帰らなかったのだと言う。
「まあ、ごめんなさい。今日の午後は講義をとっていらっしゃる? なければお茶でもご一緒しませんこと?」
「はいっ!」
いつもならアデレイドがまとわりついてくると、少し面倒に感じてしまうメリーローズとシルヴィアだが、このところ疑惑のある人物とばかり相対していたため、あけっぴろげで昔から知っているアデレイドの顔をみて、むしろホッとした。
(何も考えていなさそうなこの顔、ホッといたしますね)
(守りたい、この笑顔。わたくしたちのためにも)
その日の午後、約束通り学内のカフェテラスで待ち合わせして、三人でお茶を楽しむ。
久しぶりにメリーローズとゆっくり話ができて、アデレイドもご機嫌だ。
しかし三十分もしないうちにメルヴィンがやってきて、至急生徒会室に来て欲しいと告げた。
「済まない。急な仕事が入って、手が足りないんだ」
それを聞いて、見るからにアデレイドの表情が萎れてしまう。
見かねたメリーローズが提案した。
「では、生徒会室にご一緒しませんこと? 仕事はしなくてよろしいので、同じ部屋にいましょう」
「いいんですかあ?」
「ああ、お茶くらいは出せるよ」
メルヴィンも頷いたので、連れだって生徒会室に向かった。
行ってみると、生徒会メンバーの他、ミュリエルの二人の友人ヘザーとエルシー、そしてフェリクスも来ていた。
「お、お邪魔しまあす」
おずおずと室内に足を踏み入れたアデレイドだったが、気後れしているようだ。
彼女は天然でありながらも気位が高いため、平民は勿論、男爵や子爵といった下位の貴族にも少し距離を置きたがるところがある。
平民であるミュリエルと男爵令嬢のエルシーにも、そんな態度を取りそうに見えた。
しかし、今日はフェリクスが来ているのだ。
万が一にもミュリエルたちに、失礼な態度を取らせるわけにはいかない。
メリーローズがそっと囁く。
「アデレイド、『のぶ』ですわよ」
するとアデレイドもハッとして頷いた。
「わかりました、『のぶ』ですね」
そしてニッコリと微笑み、ミュリエルに握手を求める。
「ミュリエルさん、またお会いしましたわね」
「はい、魔法学の授業でご一緒しました」
二人とも笑顔を交わして、いい雰囲気だ。
隣のエルシーとも握手をするが、こちらとは初対面だったらしい。
「わたくし、エルシー・シモンズと申します」
「アデレイド・ロングハーストですわ」
こちらも笑顔で、いい感じである。
しかし次のヘザーとの握手の際、シルヴィアには少々気になることがあった。
アデレイドは普通に笑顔で、シルヴィアにも特に気になることはなかった。
「アデレイド・ロングハーストです」
「ヘザー・アシュビーです。先日の魔法学でお会いしていますね。でも、お名前は今回、初めて伺いました」
しかし、そう言って右手を差し出したヘザーの、ニヤリとした顔を見たときに、妙な感覚が走った。エルシーとのときは、感じなかったものだ。
これも自分の中にある『陰陽道』の魔力による勘だろうか。
ヘザーに対するアデレイドの表情からは、何も感じない。
(気のせいかも知れないが……しかし)
その後仕事が終わるまでの間、シルヴィアはヘザーを中心に、メンバーの様子をさりげなく観察し続けたが、特におかしい点はなかった。
その日、部屋に戻ると、シルヴィアは生徒会室で感じた「妙な感覚」について、メリーローズに報告する。
「妙っていうのは、どんな感じなの」
「そうですね。……何と説明すればいいのか、わからないのですが」
「うーん……」
メリーローズは考え込んだ。
「疑わしい、と一度思ってしまえば、何をしても怪しく見えるものじゃない?」
「そうかも知れませんが……」
そう言ってシルヴィアは、自分の中で立てた仮説について説明する。
「ヘザーは何か目的があって、お嬢様の周りの人物を取り込んでいるのでは、と思うのです」
「えー?」
「あくまで仮説です。そのつもりで聞いてください」
① 本来ミュリエルの友人には、エルシーが最初になるはずだった。
② これを捻じ曲げて、ヘザーがミュリエルに近づき、友人としてのポストを得る。
③ ミュリエルに何か吹き込む。
「何か吹き込むって、何を?」
「それは、一旦横に置いておいてください」
④ 本来ミュリエルの友人になるはずだったエルシーにも、当然近づいて何か吹き込む。
⑤ 今回、メリーローズの友人であるアデレイドにも接近することができた。
「当然、アデレイド様にも、『何か』吹き込むわけです」
「だから、その『何か』って何よ!」
「それをこれから探るんです」
デスクに座ったまま、両手を挙げてメリーローズが叫んだ、
「もう、お話にならないわ! 『妙』とか、『仮説』とか、『何か』とか、具体的なことが何もないじゃない。確かにヘザーは怪しいわ。でもこれじゃあ、言いがかりよ。シルヴィアらしくないわね」
「確かに、そうなのですが……」
シルヴィアの中には、何とも言えない嫌な予感に駆り立てられているような感覚がある。
それが上手く説明できず、もどかしさに頭を悩ませた。
「わたくしは、心配でたまらないのです」
「頭を冷やした方がいいわ。ちょっと庭に散歩に出ましょう」




