032 公爵令嬢のメイド、悪い予感に悩まされる
その週末、メリーローズはシルヴィアと共に実家のランズダウン邸に帰った。
入学してから何週間か、勉強が忙しいからと戻っていなかったので、両親は大喜びである。
その日の夕食はメリーローズの好物が並び、公爵夫妻、メルヴィン、メリーローズが久ぶりに同じテーブルに着いた。
「そういえば、シルヴィアは一緒じゃないのだね?」
公爵が娘付きのメイドの不在に気がつく。
「ええ、このところ自分の勉強の他にわたくしの世話もあって、忙しかったでしょう? たまには一人でどこかに、羽を伸ばしに行くように勧めたのですわ」
「ふふ、彼女にも命の洗濯をさせているわけね」
相槌を打つ母のセリフを聞きながら、メリーローズは(この世界にも『命の洗濯』という言葉はあるのね)と心にメモをする。
……実際のところ、シルヴィアは命の洗濯どころか、メリーローズの密命を帯びて調査に出かけているのであった。
シルヴィアがやって来たのは、王都の官庁が並ぶ地域だ。
日曜日になるとその辺りの役所も全部閉じられてしまうが、土曜日ならば開いている。
(偶然とはいえ、うちとアシュビー領が隣接していてよかった……)
学院の図書館の地図で調べたところ、シルヴィアの実家のマコーリー領と、ヘザーのアシュビー領の境に、わずかに接している箇所を見つけたのだ。
貴族の戸籍や領地を管理している役所に行き、マコーリー家の身分証を見せて「正確な領地の境を調べたい」と言ったら、すんなりと資料を閲覧させてくれた。
概要だけではあるが、これでアシュビー伯爵家について調べることができる。
それによると、アシュビー家ではヘザーに男の兄弟はおらず、彼女が伯爵家の跡取りとして登録されていた。
姉が一人いたようだが、戸籍から抹消されている。
(亡くなられたのだろうか?)
ヘザーが正式な跡取りになったのは三年前。
彼女が貴族中等学院に在籍せず、高等学院になってから入学してきたのは、それ以前はまだ姉がいたからなのかも知れない。
貧乏な貴族では、嫡子のみに高等教育を施し、後の子供は放っておかれるのはよくあることだ。
もし、姉が亡くなっているのだとしたら、死因は何なのだろう。
病気か、あるいは…………
シルヴィアは、背筋がゾクリとした。
(いけない。余計な憶測は、目を曇らせる)
今はまだ、粛々と事実を調査することに集中しよう。




