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031 公爵令嬢、ヘザーの謎に気づく

 メリーローズとシルヴィアが、いつもの通り生徒会室に顔を出したときのこと。

 その日ミュリエルはヘザーの他に、もう一人友人を連れてきていた。


「こちら、エルシー・シモンズ男爵令嬢です。寮では私とヘザーの隣の部屋なんです」


「エルシーです。よろしくお願いします」


 ミュリエルとヘザーは寮で同じ部屋に寝泊まりしている。そしてその隣の部屋を使っているという、大人しそうな少女を見た瞬間、メリーローズの中に衝撃が走った。


(わたくし、この子を知っている。…………というか、わたくしは…………)


 ちら、と今日も当然のように、ミュリエルの隣で(たたず)んでいる赤毛の少女を見る。


(むしろ、ヘザーを知らない……)


 流れる冷や汗をハンカチでさりげなく拭き、何事もなかったような顔で微笑んだ。


「よろしく、エルシー。わたくしとメイドのシルヴィアも、生徒会の正式メンバーではないのだけど、よくお手伝いにきていますの」


「はい。ミュリエルから、よくメリーローズ様のお話を聞いて存じております。高貴なご身分にも関わらず、とても気さくで親切な方だとか……」


「ま、まあ、いやですわ。ミュリエルさんたら。わたくし、照れますわ」


 オホホホホ……と笑いつつ、ドアへと後退る。


「あらいやだ。忘れ物をしてしまいました。すぐ戻りますので、失礼いたします」


 シルヴィアの手を掴み、そそくさと退室した。


 中庭まで走ってきてから、やっと立ち止まったメリーローズに、シルヴィアが尋ねる。


「どうしたのですか?」


「わたくし、思い出したの……」


「何をですか?」


 呼吸を整えながら、メリーローズが声を潜めて囁いた。


「ヘザー……彼女はミュリエルの友人ではないわ」


「どういうことでしょうか?」


「ゲームの中で、ミュリエルには一緒に行動する友人がいたの。だから、なんとなくそれがヘザーだった、と思い込んでいたのだけど、さっきあのエルシーっていう子を見た瞬間、思い出したのよ」


 ゴクリと唾を飲み込む。


「ゲームでミュリエルと一緒にいたのは、エルシーよ。ヘザーじゃない」


「え?」


「わたくしゲームの中では、一度もヘザーを見た記憶がない。彼女はこの世界で、突然現れたのよ」


 シルヴィアも、その言葉に絶句した。


 ミュリエルから、ヘザーと仲良くなったいきさつ――寮で同じ部屋になったことや、他の学生から無視されているときも、彼女だけが普通に会話してくれたことを聞いていたので、二人が友人同士になったことに何の疑問も持っていなかった。


「いや……でも、それじゃあ……ミュリエル嬢が、ヘザーを友人だと嘘をついていたということですか?」


「それは違うと思うわ。多分、この世界では友達なのよ。何かの力が働いて、ヘザーがミュリエルと一緒に行動するようになったんだわ」

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