028 公爵令嬢と生徒会メンバー(と危険人物)
メリーローズの予言通り、それから二週間ほどして、ミュリエルが生徒会メンバーに選ばれた。
それまで男ばかりだった生徒会室が、パッと華やかになる。
「今日からメンバーになったミュリエル・ルーカン嬢だ。皆、よろしく」
会長のメルヴィンがさっそくメンバー紹介を始めた。
「副会長のアルフレッドとは、もう会っているよね。それ以外のメンバーとは?」
「はい、直接お会いするのは、今回が初めてです」
「では今日はこの二人の紹介だな。アーネスト!」
呼ばれて、グレーの長髪に紫の瞳の美青年がミュリエルの前に立った。
「書記を務めている、アーネスト・ハンフリーだ。よろしく」
舞いのように優雅な所作で右手を差し出しながら、切れ長の目を少し伏せた後、ミュリエルに視線を送って微笑む。
他の女子学生が見たら「キャー!」と悲鳴が上がる仕草だ。
しかしミュリエルに動じた様子はなく、アーネストと握手をして笑顔を向けた。
「はじめまして。ミュリエル・ルーカンと申します。よろしくお願いします」
(他の人なら女性の気を引こうとしているみたいだけど、アネアネはこれが普通だからなあ)
メルヴィンは次にフィルバートを呼ぶ。
しかし奥のカウチで足を投げ出したまま、なかなか出てこようとしない。
「おい! フィルバート!」
声をあげるメルヴィンの他、アルフレッドも声を掛けた。
「フィルバート、女性を待たせちゃいけないよ」
「…………しょうがねえなあ」
いかにも渋々といった様子で起き上がり、フィルバートがミュリエルの前に立つ。
面倒くさそうに一言だけ言った。
「フィルバート・エンフィールドだ」
「おい、名前だけか?」
メルヴィンの問いかけにも、拗ねたように黙ったままだ。仕方なく、メルヴィンがフィルバートを紹介する。
「彼は経理関係を担当している、二年生のフィルバートだ」
「よろしくお願いします」
ミュリエルが差し出した手を無視し、プイと横を向く。
「すまないね、根はいい奴なんだ。許してくれるかい」
アルフレッドのフォローに、ミュリエルは微笑み、当のフィルバートは舌打ちをした。
(ふむふむ、興味深くてよ)
「これでも経理事務に関しては、実に有能なんだ」
アルフレッドが、フィルバートの能力の高さを褒めてみせる。
(まあ、フィルフィルのことを高く買っているのね)
「はっ! どうせ俺は平民の商売人の息子さ。金勘定が得意なんて、お里が知れるって言いたいんだろ?」
(なのに、素直になれないフィルフィル)
「エンフィールド商会といえば、田舎育ちの私でも知っています。そんなすごいお家の御曹司なんですね」
ミュリエルが素直に褒め称える。
(さすが癒しの天使。わたくしのミュリたん)
「おいあんた、さっきから何やらブツブツうるさいな」
突然会話を遮って、フィルバートが生徒会室の隅に声を掛けた。




