027-2
「わたくしは、式神も精霊も、更に言えば魔物も、呼び方が違うだけで、『同じモノ』なのではないか、と考えています」
「それは、シルヴィア個人の考えなの?」
「はい。ですが、こんな考えを表で口に出したら、当局にしょっ引かれます」
「つまりBLと同じね」
一瞬、(同じにされたくない)とシルヴィアは思ったが、口には出さなかった。
「……ああ、でも『大精霊教』の司教の中にも同様の考えを持つ者がいるように感じることがあります。でも、もしいるとしたらその者は、わたくしにとって同志ではなく、むしろ敵です」
「……なぜ?」
「精霊と式神が同じものだと気づいているからこそ、わたくしのような『魔力持ち』、つまり式神を使役する者を迫害し、『大精霊教』こそ正しいと洗脳してくるのです」
ずいぶんとアグレッシブな言葉が出てきたと思ったら、そういうことか――と、メリーローズは納得した。
「もしかして、この間の『魔法学』の授業も……?」
「はい。その内容は、ほぼ『大精霊教』がいかに偉大か、を教えこもうとする内容でした」
宗教的弾圧と洗脳、しかも王族の始祖という政治的な背景があるとは、なかなかにきな臭い話である。
「わたくしはかつて子供の頃、両親の前で一度だけ、式神を使って『陰』と『陽』を整えようとしたことがあります」
それは亡くなる直前のシルヴィアの曾祖母から、「自分がいなくなったら代わりに行って欲しい」と頼まれていた儀式だった。
「曾祖母からは、儀式をすることで自然災害を抑え、領地の作物が無事に育つ、と聞かされていました。でも、両親はそんな私を見て、ひどく叱りつけました。……当時のわたくしには、なぜ叱られなければならないのか、意味がわかりませんでした」
「まあ、そうでしょうね」
父は理由も言わず、呪文を唱えるシルヴィアの頭をいきなり後ろから叩いた。
母も「お婆様のせいだわ。余計なことを教え込んで」と決めつけた。
曾祖母からは、領民や両親のための良い行いだと聞いていたので、シルヴィアは混乱し、ひどく悲しかったことを覚えている。
「なので、それ以降は、両親や他の人が見ていないときに、こっそり術をかけるようになりました」
「あはは、止めようとは思わなかったのね?」
「自分では、正しいことだと思っていましたので」
おかげでマコーリー領では、充分な日光と、過不足ない雨、暑すぎず寒すぎない気候に恵まれ、毎年そこそこ豊作だった。
父親は、自分の領地経営が上手くいっているからだと自慢していたが、領民が幸せそうだったので、知らんぷりで聞き流していた。
「ふふっ。シルヴィアって、案外頑固よねー」
「自分で納得できないことで、人の言いなりにはなれません」
「…………その通りね」
メリーローズだって、BL小説を書くことを止めることはできない。
例えバレたら捕らえられ、裁かれ、死罪になるかも知れないと聞いても。
「あのね、私以前はシルヴィアのこと『ロボットみたい』って思っていたのよ。でも本当は、全然違うのね」
「何ですか? ロボットって」
「うーん……機械……いえ、からくり仕掛けの式神みたいなもの、かな」
この世界に、からくりという言葉はあるのだろうか、と迷ったが、通じたようだ。
「そんなものが、ナツミ殿の世界にはあるのですね」
「でも、シルヴィアはロボットじゃないわ! あなたの体の中には、クソデカ感情や、クソデカ自我がパンパンに詰まってる!」
「お嬢様、『クソデカ』などという言葉遣いは、貴族令嬢としていかがなものかと存じます」
「はいはい」
話しているうちに、攻略対象についての話題はどこかに行ってしまった。




