027 公爵令嬢、この世界の宗教を学ぶ
「それは、『精霊』や『式神』が発する光に似ているような気がします」
「えっ! 『精霊』や『式神』って、目に見えるんだ!」
「はい。それなりに修行を積んだ者であれば、それに近いものは……。わたくしはその方法を曾祖母から教わっておりますので、見ることができます。『大精霊教』の信徒も、修行を積んだ者なら見ることができると聞いたことがあります」
「じゃあ、わたくしの七五三の儀式を行ってくれた大司教様クラスなら、勿論見えるのよね」
「それは、どうでしょうか」
宗教家で位の高い者ならば、当然それなりの修行を行っていると考えたメリーローズは、首をひねった。
「大がつく司教でも、見えなかったりするの?」
「わたくしが教わった魔力――お嬢様が仰るところの『陰陽道』と、『大精霊教』とは似ているところがあります。万物に霊力が宿っており、その力を借りるという考えです」
「うんうん、日本の『八百万の神』的なものね」
「わたくしの魔力の根底にある『陰陽道』は、積極的にその力を借りる……地方領主から村人のような低い身分の人々まで、日照りの時に雨ごいをしたり、作物がたくさん収穫できるように、式神に命じて陰と陽の気のバランスを整えます」
この説明に、メリーローズが「ほーっ」と感嘆の息を漏らした。
「その時に式神とキラキラが見えるのね」
「正確に言うと、式神自体は見えませんが、光が見えます。……一方、『大精霊教』では、一般の人間が精霊を使役することはありません。聖堂で祈りを捧げたりはしますが……」
「へー、どうして?」
「『大精霊教』の最高神は大精霊、つまり現王族の始祖に当たります。精霊に対して祈りを捧げ、お願いを伝えるだけならまだしも、『使役する』のは王族に命令を下すのと同じ。不敬と断罪されても仕方がない行為です」
シルヴィアの説明を聞きながら、大きく頷いているメリーローズだが、その独り言をよく聞くと「アルたんのご先祖は大精霊。道理で後光が射しているわけだわ」と、妙なところに感心している。
「お嬢様、真面目に聞いてくださいませ」
「真面目に聞いてるわよう。……でもその理屈でいくと、シルヴィアが呪文を唱えたりするのって、もしかして実は結構ヤバい?」
「割とヤバいです」
さくっと言い切った。
「え、大丈夫なの?」
「一応、精霊と式神は別のものと考えられています。私が使役するのは、あくまで式神であって、精霊ではありません。しかし……」
ここでシルヴィアが声を潜めた。
二人しかいない室内でありながら、相当な用心の仕方に、メリーローズも緊張する。




