026 公爵令嬢と攻略対象たち
「そうね。わたくしの目から見ても、お兄様はいつものお兄様だった気がするわ」
「わたくしも同意です。それからアルフレッド殿下に関しては、まずお嬢様の態度がいつも以上に積極的だったため、殿下のご様子もいつもと違いましたが……」
「え? わたくし、何か積極的だったかしら?」
シルヴィアは思わず半眼になり、言葉を切る。
「どうかして?」
「いえ、ご自覚がないのですか? 貴族令嬢としては少々はしたないご様子で、アルフレッド様に愛の言葉を告げておられましたが」
非難めいたシルヴィアの言い様に、メリーローズは頬を膨らませる。
「えー! あんなの、いっつも思ってることだわ! 『アルたん、可愛い! アルたん、美しい! アルたん究極の受姫!』って」
「お嬢様、『美しい』はともかく、殿方に『可愛い』は失礼ですし、ましてや『受姫』など言語道断です。決して声に出して言わないように!」
「ういっす」
理解してくれたのか、いないのか、ふざけた返事をよこす。
そんな主人に一瞬眉を寄せた後、シルヴィアは「ふっ」と鼻で笑った。
「あー、馬鹿にしてるー」
「いえ、違います。今日のアルフレッド様とお嬢様のやり取りは、貴族令嬢としては褒められたことではございませんでしたが、今後については、良い方に転んだのではないかと思います」
「…………そうなの?」
きょとんとするメリーローズを見て、(あ、わかってないな)と思うシルヴィアである。
今日のランチタイムで、メリーローズはアルフレッドを正面からじっと見つめ「美しい」と告げ、「他の女子に取られたくない」と言った。
それに対しアルフレッドは大いに照れた後、「自分の視界に入る女性はメリーローズだけだ」と答えた。
これはもうお互い、愛の告白である。
(これまで、てっきりアルフレッド殿下は、お嬢様のことを大切にはしてくださっていても、義務感によるものだと思っていた。しかし今日のあのご様子は、お嬢様に恋していらっしゃると判断して間違いない)
メリーローズにとって、これは良い材料だ。
もしこの先ミュリエルの恋愛対象がアルフレッドへと舵が切られたとしても、そう簡単にことは進まないだろう。
ゲームの強制力に、充分対抗できる要素である。
(しかし、アルフレッド殿下にとっては……)
少なくとも今現在、彼がどれだけメリーローズに純情を捧げようと、当のメリーローズは「アルたん、萌え!」「BL萌え!」という有様である。
「アルフレッド殿下。ご愁傷様にございます」
シルヴィアがそっと漏らした呟きを、メリーローズが耳ざとく聞き取って叫んだ。
「えっ! アルたん、死にそうなの? やだ、うそ!」
「誰がそのような不吉なことを言いましたか。アルフレッド殿下がこれからも苦労されそうだと思い、お見舞いの言葉を言っただけでございます」
「なあーんだ、良かったー」
胸を撫でおろしたかと思いきや、何やら思案した後、ニヤニヤしている。
「うん、そうね。余命ものとか、いいんじゃない? 読者さんが思わず涙する、切ないラブストーリー。……あー、でも、フィクションとはいえアルたんが死んじゃうのは嫌だな。……そうだ! 闘病ものにして、最後に回復の兆しが見えるのは、どうかしら。愛の力で奇跡を呼び起こすの。デュフ」
早速ネタにしているようだ。
(たくましいことだ)
先日までの、何かと悪い予想に引っ張られていたときのことを思い出すと、やはりメリーローズはこのくらい図太い方がいい。
が、ここはまず、やるべきことをやらねば。
「お嬢様!」
「『アルたん、俺を置いて逝くな』『僕だって……生きたい。やっと……君に想いが通じたというのに……ケホッコホッ』再び咳の発作が起きたアルたんが、苦しげに崩れ落ちる。『アルたん、俺にお前の病気を、分けてくれ』攻は力の抜けた細い体を抱き上げ、その唇を…………呼んだ? シルヴィア」
「はい、呼びました。アルフレッド殿下とメルヴィン様以外の『攻略対象』たちの様子も確認したいので、彼らの名前と、ミュリエル嬢とのフラグが立つタイミングを教えていただけませんか?」




