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024 公爵令嬢、浮足立つ

 はたしてメリーローズが予言した通り、翌日の授業開始直前に、ミュリエルとヘザーがメルヴィンに伴われて教室にやってきた。


 メルヴィンは一年生のご令嬢たちからも人気があるようで、彼の登場と、平民(ミュリエル)を道案内してきたことに教室がざわつく。


 シルヴィアがちらりとメリーローズを見ると、主人は目を閉じて「うーん」と(うな)っていた。


「どうかなさいましたか?」


 また例の強制力が働いているかと心配したが、メリーローズは首を横に振った。


「……うん、大丈夫みたい」


 落ち着いた声に、胸をなでおろす。


「まあ、ちょっとだけムカッとしてはいるけど」


「え?」


「この場面ね、ミュリエルがお兄様と一緒にやってきたのを見て、わたくしが『道に迷った振りをして、お兄様に近づいたのね! 恥知らず!』って罵倒する場面なのよ。その影響が少しだけあるみたい。でも、一昨日(おととい)ほど強くないわ」


「そうですか」


 言われてみれば、今日は例のモヤモヤも見られない。


 メルヴィンの方でもメリーローズたちに気がついたようで、こちらに手を振った。


「ちょうど妹たちの席の隣が空いているようだ。あそこに座ればいい。いいよね? メリー」


 シルヴィアが慌てて耳打ちしてくる。


「だ、大丈夫ですか?」


「ええ。それにこの先ずっと、ミュリエルを避け続けるわけにはいかないでしょ」


 そう小声で返事をし、兄には「勿論ですわ」と笑顔を返した。


「お、お邪魔します」


 遠慮がちにミュリエルが隣に座る。


「そんなに固くならないで。あ、先生がいらしたわよ」


 ミュリエルたちが席に座るのを見届けると、メルヴィンは教師に挨拶をして教室を出て行った。


 すぐ隣に座っているミュリエルの存在と、自分の心の動き、一昨日聞こえてきた強制力の声が聞こえないかを、メリーローズは慎重に検分した。


(うん、大丈夫そう)


 ホッとして隣に視線を送ると目が合ってしまい、ミュリエルは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに満面の笑顔が返ってきた。


(うわ、可愛い)


 さすが乙女ゲームのヒロインである。

 プレイヤーが親近感を覚えやすいよう、一見平凡そうに見えるが実はすごく可愛い、というデザインになっているのだと改めて思った。


(乙女ゲームだから消費者ターゲットは女性だけど、ちゃんと男性にモテる要素もぶち込んであるのよね)


 そう考えながら、先ほどのメルヴィンの様子を思い出してみる。


(冷静な先輩フェイスを装っていたけど、ちょっと鼻の下が伸びていたような気もする)


 自分に対して常にニコニコと笑顔を向けてくれる兄だが、さっきは確かに普段より()()()ていた。

 長年一緒に暮らしてきた妹でしかわからない、微妙な違いである。


(でも、わたくしを見つけてからは、いつものお兄様だったような気もする)


 そう思いつつ、もう一度ミュリエルをチラ見したメリーローズだったが、その瞬間、驚愕の事実に気づいてしまった。

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