003 公爵令嬢は病気です(色々な意味で)
そういうわけでBL小説を書いているメリーローズ。
前世で書いていたのは乙女ゲームの二次創作だった。
では今生では何を書いているかというと、人間そうそう変われるものではない。
しかも今生きている世界そのものが乙女ゲーム「レジェンダリー・ローズ」の中である。
そして彼女の周囲にいるのも「レジェンダリー・ローズ」の登場人物である。
つまるところ、身の回りの人間をネタに、BLを書き始めてしまったのだ。
主人公、というか中心人物は勿論、『受』の権化であるアルフレッド第二王子。
メリーローズにとっての婚約者だ。
お相手はメルヴィン・ランズダウン。
今となっては、自分の兄である。
前世でも王道カップリングと言われた一番人気カップルの「メル×アル」、つまり「メルヴィン×アルフレッド」。
右を見れば、アルフレッド(受)、左を見ればメルヴィン(攻)。
こんな環境で、彼らをモデルにBLを書くなという方が無理な話だ。
「いやーん。ネタが服着て歩いてるー」
嬉しそうに微笑みながら、そう曰ったメリーローズに、「じゃあ、ネタは裸なので?」とシルヴィアがツッコんだことがあるが、そのときの答えはこうだ。
「うふ、そのとーり」
その答えを聞いたシルヴィアが、頭を抱えたことは言うまでもない。
しかし、いくらメリーローズにとって身近な人といっても、その身分は第二王子と公爵令息だ。
そんな人々をモデルにして、禁じられた同性愛小説を書くということが、いかに危険なことか、想像がつくというものである……普通なら。
「いいえ、わたくしだって理性はあるわ。だから、自分が危険なことをしている自覚くらいありますとも」
「では小説を書くのは、おやめください」
「それは無理ー。あと、そのことで文句があるなら、アルたんに言って!」
「アルたん……」
シルヴィアはこめかみを押さえながら、確認した。
「その……『アルたん』というのは……?」
「もちろん、アルフレッド様よ。お兄様の恋人の」
「ではなくて、お嬢様のご婚約者でしょうが!」
「そうとも言うわね」
シルヴィアはこめかみだけでは足りなくなって、頭を抱える。
メリーローズは、そんなシルヴィアの様子など目に入らないかのように、軽やかに語りだした。
「ああ。あれは、わたくしが前世の記憶を思い出して、最初にアルたんと会ったときのことよ……」
それは例の、メリーローズが試験勉強で無理をした挙げ句倒れてから、数日後のことであった。




