021-5
「最近、読書をするようになったんですけど、そしたら、その中に難しい言葉が時々入っているんです。それで、改めてちゃんと勉強しようかなーって」
アデレイドから「読書」という単語を聞いて、一瞬自分の小説ではないかと心臓が鳴ったが、特に勉強をし直そうと思うほど難しい言葉を使ってはいなかったはず、と考え直しホッとする。
「どんなものを読んでいらっしゃるの?」
「え、えーっと……………………し、詩の本です!」
詩という答えが出るまで、やけに間があったが、二人とも(まあ、アデレイドのことだし)と流すことにした。
「素晴らしいわね。教養を身に着けるのは、大事だと思いますわ」
「はいっ!」
「そういえば、アデレイド様は明日の午後の魔法学を受講されますよね?」
思い出してシルヴィアが確認する。
「あ、は、はい」
「わたくしもです。ご一緒いたしましょう」
「ええっ!」
アデレイドはシルヴィアが苦手なようで、あからさまに嫌そうな声をあげた。
実のところシルヴィアの方もアデレイドは苦手な人種だが、そこをこらえて誘ってみればこの態度である。
「あのぉ、メリーローズ様は受けられないんですの?」
「ええ、わたくしは魔力がなくて。アデレイド、シルヴィアをよろしくね」
「……はぁい」
いかにも渋々といった表情で了解した。
ひとしきり予習を終えると、アデレイドは「また明日」と笑顔で自室に戻っていった。
「ふふっ。彼女、魔法学に誘ったとき、嫌そうな顔していたわね」
「失礼ですわ。いくらわたくしが男爵家出身のメイドで、彼女が侯爵令嬢とはいえ」
シルヴィアのむすっとした顔を見ながら、メリーローズが質問した。
「どうして、アデレイドを誘ったの? 彼女のことは苦手なのかと思っていたけど」
「ええ、苦手です。でも魔法学は例のミュリエル嬢も受講するはずです。アデレイド様の陰に隠れてミュリエル嬢のことを観察しようと思いまして」
「あ、そういうこと」
「一人で受講していて、ミュリエル嬢のことをチラチラ見ていたら怪しまれますが、アデレイド様と会話している振りをすれば、じっくり観察しやすいかと」
「なるほどね! ではお願いするわ」
一方、メリーローズの部屋を退出したアデレイドは、ウキウキと廊下を歩いていた。
「ふう、さっきは焦ってしまいました。でも……」
部屋に戻れば「読書」の続きができる。想像するだけで、頬が緩むアデレイドだ。
「世の中に、あんな本があるなんて、知らなかったです。淑女の秘密のお楽しみですわぁ。……あ、そうだ。もし今度『何の本を読んでいるの?』って聞かれても困らないように、何か適当な詩の本を探しておきましょう。……でも……」
少し緊張した面持ちになって呟く。
「わたくしが、あんな本を読んでいるなんて、メリーローズ様には絶対知られないようにしなくっちゃ」




