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021-4

 そんなメリーローズに対する思いやりや優しさでいっぱいの会話をする二人をよそに、本人はシルヴィアと人気(ひとけ)のない場所を探し、中庭の植木で作られた迷路の中にしゃがみ込んだ。


「いかがいたしましたか? お嬢様」


「あああのね、昨日のあの『ごきげんよう』なんだけどねねね」


「はい、深呼吸ー。今ここで慌てても、何もなりませんよ」


 シルヴィアはメリーローズの背中に手を当てて、顔をのぞきこむ。

 その視線を受けて、メリーローズは微笑んだ。


「いつもありがとう、シルヴィア。本当に、まずは落ち着かなきゃ話にならないわね」


「お嬢様、確かにミュリエル嬢には何かの力が働いているのは確かですが、少し怖がり過ぎです」


「……そうね、考えすぎかも知れないわ」


 でも、とメリーローズは思う。

 先日も、ミュリエルの話を聞き出そうとする前に、アルフレッドが彼女の話題を振ってきた。

 さっきだって聞いてもいないのに、ミュリエルへのいじめの問題が改善された、とアルフレッドとメルヴィンが礼を言ってきた。

 一つ一つだけなら、大したことはないのかも知れない。


(でも今まで彼らが特定の誰かのことを、こんな頻度で口にしたことが、あっただろうか……?)


「お嬢様……」


 励ましても表情を曇らせているメリーローズのことが、シルヴィアは心配になる。

 その時だった。


「メリーローズ様ぁ、見つけましたわあ!」


 調子を狂わせる声が、後ろの方から聞こえてきた。

 勿論、アデレイドである。


「お茶のお約束をしていたのに、ひどいです!」


 そう言いながら、メリーローズたちが隠れていた迷路の中央に向かって来ようとしているが、道に迷って難儀していた。


「あらー? あらー? もう、いじわるな迷路さんね! 邪魔をしないで、わたくしをメリーローズ様のお傍に行かせてえ!」


 焦るあまり、メリーローズのいる場所に行くため、植木を乗り越えそうな勢いである。


「あーあ、裾のレースが引っかかって破けそうになってる」


 渋い顔で呟くシルヴィアの横で、メリーローズが苦笑しながら大きな声でアデレイドを止めた。


「そこで待っていていただけますかしら? わたくしたちがそちらへ参りますわ」


「はいっ!」


 アデレイドがいい笑顔で返事をした。



「明日のお勉強の準備と聞きましたわ。ここで準備なさってらっしゃるのですかぁ?」


 無邪気に聞いてくるアデレイドに、シルヴィアは一瞬気が遠くなる。


(そんなわけ、あるはずないじゃないですか)


 心の中で突っ込みながら、表では勿論違うことを言った。


「いえ、ここでは、明日受ける授業科目を、確認していただけでございます」


 それを聞いて、うふふ、と笑いながらアデレイドが頷く。


「そうですわよね。ここでは科目の確認ですわよね」


(いや、普通はしないでしょ。庭園の迷路の中で授業の確認は)


 普段は突っ込まれる側のメリーローズも、思わず突っ込まずにはいられない。

 とはいえ、それで納得してくれる相手で助かるとも言える。


「ではそろそろ、お部屋に戻りましょうか」


「はい」


「はいっ!」


((……ん?))


 シルヴィアはともかく、なぜアデレイドが返事をするのか? ……という二人の疑問をよそに、アデレイドは当然と言う顔をして、メリーローズの後について一緒に部屋までやってきた。


「お邪魔いたしまーす」


「あ、あのね、アデレイド」


「はい、これから明日の授業の予習をするのですよね」


「え、ええ」


 ニコニコと着席するアデレイドの頭越しに二人で目配せした後、メリーローズがコホン、と咳払いした。


「シルヴィア、お茶の用意をお願いね。あ、あなたのも入れて、三人分で」

「かしこまりました」



 お茶を運んだシルヴィアも着席させると、メリーローズは何事もないような顔で微笑んだ。


「では、予習をいたしましょうか」


「はーい!」


 ちなみにアデレイドのこれまでの成績と言えば、下から数えた方が早く、お世辞にも優秀とは言えない。

 これまでメリーローズから勉強に誘われても、「えー」「でもー」とのらりくらり躱してきたし、高等学院に進学すると聞いたときはむしろ驚いたくらいであった。


 それが自分から予習しようなんて、どういう風の吹き回しだろう。


「うーん、最近になって、やっぱりお勉強って大事だなーって思うようになったんです」


「それは、いいことだわ」


 メリーローズも、思わず微笑む。


「何かきっかけがおありでしたのでしょうか?」


 シルヴィアが質問すると、こう答えが返ってきた。

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