021-3
021-3 お茶を飲み始めたばかりだったのに、さっさと行ってしまったメリーローズたちの後ろ姿を見ながら、アルフレッドたちは呆気にとられていた。
「忙しない奴で、済まないね」
メルヴィンが謝ると、まだガッカリした表情が抜けきらないまま、アルフレッドが答える。
「仕方ないさ。学院に慣れるまでは、ゆっくり見守らないとね」
「そう言ってもらえて助かるよ」
男二人で溜め息をついていると、何やら賑やかな気配が近づいてきた。
「まあ、アルフレッド殿下、メルヴィン様、ごきげんよう。メリーローズ様をお見かけされませんでしたかぁ?」
メリーローズの取り巻き、アデレイドである。
「妹なら、明日の準備があるとかで、寮に戻ったよ」
「ええーっ! 今日はここでお茶をご一緒するお約束でしたのにー! でも、さすがはメリーローズ様。授業の準備に怠りないなんて、見習わなければいけませんわぁ! では、ごきげんよう」
言いたいだけ言うと、彼女もまたさっさと席を後にした。
「彼女だけなんだよな……」
その後ろ姿を見ながら、ポツリと漏らすメルヴィンに、アルフレッドが「え?」と聞き返す。
「いや、アデレイド嬢だけなんだよ。メリーに近づく貴族令嬢の中で、純粋にメリーと仲良くなりたいっていう子は」
「じゃあ他の令嬢たちは、何か他に目当てがあってメリーローズに近づいてるっていうのか?」
「ああ、例えば俺とか、でなきゃ君とお近づきになろうってね、アルフレッド」
「……僕?」
鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くするアルフレッドに、メルヴィンが苦笑した。
「当然だろう、第二王子殿」
「え、だって、僕はもうメリーローズと婚約してるんだけど? なのに僕に近づいて、どうしようというんだ」
「正妃は無理でも、側妃になれればいいって感じじゃない? もしメリーに子供ができなくて自分だけが産んだら、将来は国母になれる可能性もあるし、そうでなくても王族の末席には加われるわけだ」
「……そんな打算でいっぱいの令嬢なんて、例えメリーローズが許したとしてもお断りだ!」
あはは……、と笑ってメルヴィンがアルフレッドの肩をバンバンと叩く。
「いやー、よかったよ。君がまともな人間で。それでこそ、可愛い妹を預けることができるというもんだ」
「からかわないでくれ」
「申し訳ございません、第二王子殿下」
そう言うと、メイドからポットを取り上げ、空になったアルフレッドのカップに自らお茶を注ぐ。
アルフレッドがそのカップに口をつけると、アールグレイの香りが口いっぱいに広がった。
「メリーローズに、心を許せる友人が増えるといいな」
「ああ、新しい学生が入ってくるこの環境で、俺もそうなることを願っているんだ」




