021-2
「メリーローズ、礼を言うよ」
翌日、午後のティータイムに、メリーローズはアルフレッドから声をかけられた。
「何のことですの?」
アルフレッドと一緒に来たメルヴィンも、席に着きながら笑いかける。
「聞いたよ、昨日のこと」
メリーローズが平民のミュリエルに挨拶したことは、女子学生のみならず、男子学生の間でも話題になっていた。
そのおかげで、女子寮の雰囲気が和らいだらしいと、専らの噂だそうだ。
「わ、わたくし、特に何もしておりませんわ」
「いやいや」
メルヴィンがメリーローズの肩を軽くたたいた。
「ミュリエル嬢のことは、我々生徒会でもちょっと問題になっていたんだ。彼女自身のことじゃなくて、彼女に対する他の学生の態度がね」
「ああ、この学院の学生は門をくぐれば皆平等というのが本来の校風だ。その空気を乱されるのは困るのだが、女子学生のこととなると、なかなか僕たちでは介入がしにくいんだよ。寮も男女別々だし」
アルフレッドも続ける。
「そこにメリーローズが一言、彼女に挨拶したおかげで、他の学生も彼女に話しかけるようになったらしいんだ」
「へ、へえ……」
自分の知らない間に、昨日の苦し紛れの挨拶が、そんな影響を及ぼしていたとは知らなかった。
「それは、ようございましたわ」
オホホ……と笑ってみせながら、内心では肝心のミュリエルがどう思ったかが、大いに気になる。
(ゲームの設定のままの『いい子』だったら、悪いことにはならないはず)
しかし、もし転生者で、ヒロインの立場を悪用して周りを引っ掻き回すような人間だったとしたら、むしろ悪手を打ってしまったかも知れない。
何しろ、本来なら彼女を罵倒している場面である。
そうなるよう、強制力も働いた。
それらを破ってまで挨拶したということで、「メリーローズもまた転生者である」と、バレた可能性が高い。
(ややヤバいですわ。どうしたらミュリエルの真意を探れるかしら)
隣で控えていたシルヴィアは、メリーローズの顔に冷や汗が大量に流れているのに気づき、すかさず話しかける。
「お嬢様、わたくし明日の準備のために、失礼させていただきたいのですが」
「あら、わたくしも準備しなくては。では、アルフレッド様、お兄様、ごきげんよう」
アイコンタクトを交わして席を立ち、そそくさと二人ともその場を立ち去ってしまった。




