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020-2

 メリーローズやアデレイドたちのような、中等学院から王立の学院に通っている貴族の学生はともかく、新しく外部から高等学院に入ってきた学生たちは、学院の方針やシステムに初めて接する者がほとんどだ。


 そういった不慣れな学生たちを指導するため、午後は高等学院の生徒会メンバーが駆り出され、外部入学者を集めてオリエンテーリングや質疑応答などを行っている。


 生徒会メンバーは、アルフレッドやメルヴィン他、ゲームの攻略対象たちが占めていた。


 メルヴィンが会長、アルフレッドは副会長、そして書記のアーネスト・ハンフリー、会計役員のフィルバートだ。


 当然アーネストも攻略対象で、クールな野心家の三年生。感情が表面に出やすいフィルバートと、対をなすキャラクターである。

 濃いグレーのロングストレートヘアと紫色の切れ長の瞳を持つ美形で、ゲームのプレイヤーからも物語世界の登場人物からも、人気が高い。


(ふふん。出たわね、ツンデレ担当アーネスト)


 オリエンテーリング会場をこっそり覗いて、メリーローズがほくそ笑む。


「お嬢様、はしたのうございます」


 例によってシルヴィアに注意されるが、耳に入らない。


 生徒会メンバーたちにはエフェクトでもかかっているのか、その周りにキラキラした空気をまとっているので、広い会場のどこにいるかがよくわかる。


 が、彼らとは別に、同じようにキラキラした場所があることに気がつき、メリーローズに緊張が走った。


(ミュリエルだわ!)


 ミュリエルはヒロインとしてキラキラしているだけでなく、暖かい春風のようなオーラを持っている。


 彼女の隣や前後にいる男子学生たちは、ミュリエルをチラチラと見てはウットリと微笑んでいた。


(これは、手強いわね)


 ただそこにいるだけで、周囲の男性を魅了していくミュリエル(ヒロイン)

 何かの力(チート)をわざとふるっているのか、それとも単なるヒロイン補正なのか、見ただけではわからない。


(これまで、ミュリエルの力については、彼女が無意識で使っている方がいいだろうと何となく考えていたけど、こうなると考えものだわ)


 以前シルヴィアとの会話で「困難に立ち向かうのに、心構えがある方が、無いよりはいい」といった会話をしたことを思い出した。


(ミュリエルはそれこそ、何の覚悟もなく、他人の心を無軌道に魅了しているように見える。アルたんやお兄様、その他の攻略対象が彼女に魅せられずに済めば……、なんて甘い期待ね)


「お嬢様?」


 シルヴィアに話しかけられて、メリーローズは我に返る。


「いかがなさいましたか?」


 こうしてシルヴィアが隣にいることも忘れ、ミュリエルのことばかり考えてしまったのも、あるいは彼女の力か、ゲームの強制力が働いたのかも知れない。

 そう説明すると、シルヴィアもまた難しい顔になった。


「ミュリエル嬢は、我々が考えている以上の強敵かも知れませんね」


「ええ、今日のところは、距離をとって部屋に帰った方がよさそうだわ」


「はい」


 と、部屋に戻ろうと振り返った時、再びオリエンテーリング会場の様子が目に入って、アルフレッドがミュリエルに近づき話しかけているのが見えてしまった。


 ドクン! ドクン! と心臓の音が高鳴る。


 ミュリエルに笑顔を向けるアルフレッド。

 そんな彼に頬を染めて見つめ返すミュリエル。


(わ、わたくしだって、アルフレッド様から、笑顔を向けられたことくらい……)


 自分に向けられた優しい笑顔を思い出そうとするが、なぜか浮かんでこない。

 自分とは違う誰かの声が、耳元で囁く。


『アンマリデス。アルフレッド サマ。コレハ ウラギリ デス』


(ち、違う。アルフレッド様は、ただ親切なだけで……)


『ニクイ。カレガ エガオ ヲ ムケル、アノ オンナガ ニクイ』

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