019-2
村の人だって百人いたら百通りの「ミュリエル評」があるはずだ。
なのに全員が同じようにミュリエルを「いい子」だと言うのは、確かに不自然だろう。
「ただその不自然さが、ゲームの設定による強制力的なものなのか、はたまた彼女が何かチートな能力を持っていて、他人を魅了する力を得ているのかがわからないわ」
「……以前、ミュリエル嬢がお嬢様と同じ転生者かも知れない、と言われていましたよね」
「ええ。まあ、可能性としてね」
「もし他人を惹きつける特別な力があったとして、それを無自覚に使っているのか、転生前の知識があって自分から使っているのか、それによって我々も対応を変えないといけないわけですね」
「そうなのよ! さすがシルヴィア、理解が早いわ」
メリーローズは笑って褒めたものの、当のシルヴィアは頭を抱えた。
「失敗です。せっかく彼女の故郷の村に行ったのに、表面的なことしか聞かないまま『善人』に違いないと思い込んでしまいました」
すると、メリーローズの顔色がすっと土気色になり、唇をワナワナと震わせる。
「言わないで~。それで言ったら、わたくしの方こそ大失敗なんだから~~~」
あのお茶会の日、せっかくアルフレッドの方からミュリエルについての話題を振ってくれたにも関わらず、本能と欲望のままに妄想を爆裂させ、挙げ句……
「『魔物』に間違えられるような笑い声を発して、お茶会を強制終了させてしまいました…………っ」
そのうえあの後、司教が何人もやってきて、本当に魔物が出現したのか庭をくまなく調査し、魔物の痕跡が見つからないということで、屋敷の中まで調べられそうになったのだ。
「さすがにお父様が『そこまでしなくてもいい』と断ってくださったので助かったけど、万が一私の部屋も調べられて『その鍵のついた引き出しを開けてください』とか言われていたかもしれないと思ったら、ゾッとするわー」
「そして、肝心のミュリエル嬢やフェリクス様のことを、聞けずじまいだった……と」
「お詫びの言葉もございませんー。しくしく、しくしく」
あの日、会話の流れは完璧だった。
上手く誘導すれば、同じく高等学院から学校生活を始めるフェリクスの様子なども、聞き出せるチャンスだったのである。
泣いているメリーローズを、シルヴィアが背中をさすって慰める。
「仕方のないことです。所詮わたくしたちは世間知らずの箱入り娘なのですから。こういう言葉の駆け引きで情報を引き出すような、……えーと、お嬢様の前世で、何と言いましたっけ、……えー、『すっぱい』?……」
「スパイ?」
「そう、そのスパイのまねをするには、まだまだ修行が足りません。わたくしの方も失敗だったのですから、これからまた頑張りましょう」
「ありがと。……慰めてくれて」
シルヴィアは本当は「スパイ」という単語を忘れたわけではなかった。
うまいジョークが言えなくて、忘れた振りで場を和ませようとしたのだ。
メリーローズにも、それは伝わっている。
「頑張りましょう! 本番はこれからよ」




