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019 公爵令嬢とメイド、決意を新たにする

 シルヴィアがランズダウン邸に戻ってくると、メリーローズは落ち込みのあまり何日も寝込んでいるところだった。


 メルヴィンからは「そっとしておいてくれ」と声を掛けられる。


「先日、庭でお茶会をした時、世にも不気味な声が聞こえてね。魔物の声じゃないかって大騒ぎになったんだが、そのせいであの通りとても怯えているんだ」


 結局、聖堂から司教を呼んでお祓いをしてもらったものの、特に魔物の痕跡は見つからなかったのだという。

 そこまでの説明で、シルヴィアはピンときていたが、そのまま何食わぬ顔で頷きながら話を聞いた。


(お茶会の席で、一体何を妄想したんだか……)


 * * *


「お嬢様、シルヴィアです。ただいま戻りました」


 ノックして部屋に入ると、なるほどメリーローズがベッドの中でぐずぐずしている。


「ううー、ジルヴィアー。わだぐじは(なざ)げない女、いえ魔物声の女ー」


「はいはい、おおよそのことはメルヴィン様から聞いて、わかっております。どうせお茶会だというのにBLのことを考えて、邪気を含んだ笑い声でも漏らしたのでしょう?」


「どうじで、何も言っでいないのにぞごまでわがるのー? やっばりジルヴィア、天才(でんざい)ー」


 泣きながら抱き着いてくる主人の頭をよしよししながら、シルヴィアはミュリエルに関する報告を始めた。


「……というわけで、ミュリエル嬢に関する村人の評判は上々というところでございます」


「ふーん……」


 実家から帰る途中、少し遠回りしてミュリエルの出身地という村(メリーローズが辛うじて覚えていた)に行き、「病気が長引いている祖母のために、奇跡を起こしたという噂の少女を訪ねてきました」という触れ込みで探し回ったのだ。


 実のところ既にミュリエルとその一家が、入学式に参加するため王都に来ていることは、確認済である。


 うっかり当人やその家族と、鉢合わせしたくなかったことがひとつ。

 もうひとつは、第三者からの冷静な評価を集めたかったからだが、それにしても、ミュリエルのことを知る人々からは、判で押したように褒めそやす言葉ばかり出してきたのだった。


「あんな気立てのいい子はいない」とか、「家族思いで優しい娘」とか、「村の仕事も率先して働いてくれる」とか、そういった話ばかりが飛び出してくる。

 最後に「彼女が起こした『奇跡』のことだったら、あの方が一番ご存じだよ」と紹介されたのが例の司教で、これまたミュリエルが幼い頃からの話を延々と聞かされてしまい、張りついた笑顔も強張って、顔が筋肉痛になったということである。


「少なくとも、村でのミュリエル嬢に不審な点はないかと」


 そう報告を終わらせたシルヴィアに、メリーローズは考え込んだ。


「何か、気になることでも?」


「いえ、ありがとう。ご苦労様。……ただ、生まれてから十五、六年も同じ村に住んでいて、彼女のことを悪く言う人が一人もいないって、少し不自然じゃないかしら? と思ったのよ」


 それが主人公(ヒロイン)補正によるものなのか、何か人心を操る力を持っているのか、外面がものすごくいいのか、はたまた本当に心がきれいなだけなのか。


「そういうものでしょうか?」


 シルヴィアにしてみれば、計画的に、より正確で冷静な評価を求めて、家族以外の人間からの評価を聞いてまわったのだが、それでも全く誰からも悪評を聞くことはなかったのだ。


「ミュリエル嬢が、善人だという証拠だと思ったのですが……」


「では聞くけど、あなたはここに来る前、兄弟たちからどんな評価を受けていた?」


 それを聞いた途端、シルヴィアの顔が軽く引きつった。


「あ、ごめんなさい! 嫌なことを思い出させて。……あなたの話から、きっと兄弟たちはあなたのことを悪く言っていたのではないかと思ったの。勿論、わたくしはそうは思わないわよ」


「……はい」


「私にとっては、あなたのお父上や兄弟の方が、余程イヤな奴に思えるわ。……ね? 考え方や相性で、他人からの評価なんて良くも悪くも変わると思わない?」


「なるほど」


 シルヴィアにも、メリーローズの言わんとする意味がわかってきた。

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