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017-3

「お……お嬢様?」


「シルヴィア。あなた、わたくしの前で、言ってはいけないことを、お言いね……?」


 メリーローズはその炎の気とシンクロするように、体をゆら~り、ゆら~りと揺らしながら、シルヴィアに迫った。

 その顔は無表情ながら、据わった目をじ……っとシルヴィアに向けている。


「ねえ……言ってはいけないことを、お言いね……?」


「わー! すみません、すみません! わたくしが間違っておりました!」


 迫力に負けて、わけがわからないまま平謝りすると、メリーローズの顔がスッと元に戻り笑顔を見せた。


「わかってくれれば、いいのよ。うふ」


 ホー……ッと息を吐き、シルヴィアは安堵した。

 主人のこんな顔は初めて見た気がする。


「あの、アルフレッド様が『受』か『攻』かというのは、それほどまでに大きな意味を持つのでしょうか?」


「当然よ‼」


 再び目を吊り上げて、ダン! と握りこぶしでテーブルを叩くメリーローズに、シルヴィアはビクッと肩を揺らした。


「まあ、BL()()()であるシルヴィアが、その辺りにまだ疎いのは仕方がないことだけど……」


 そう理解を示すメリーローズに、(別にBL()()()()になりたいわけではないです)と、こっそり心の中で反論するシルヴィアだ。


「人によってはリバーシブルに寛容な人もいるにはいるけど、わたくしは違うわ。誰が『受』で誰が『攻』かというのは、動かしがたいことなの」


 そしてメリーローズの目が再びギラギラし始める。


「そう、前世でもいたわ。アルたんを、こともあろうに『総攻』にする敵サークルが……」


「メ、メリーローズ様……?」


 が、怯えを見せるシルヴィアに気づき、怒りを収めた。


「ま、もう昔のことだわ。ここはアルたんを『攻』にしようとする不届きな人間のいない、青き清浄なる世界なのよね。清々しいことこの上ないわ」


(BLってそんなに清らかな世界でしたっけ?)


 そう聞きたい気持ちを、シルヴィアはぐっと堪えた。


「と、ところで『最善策』『次善策』『妥協案』と書かれていますが、これは別に作戦ではないですよね? 全部、結局のところミュリエル嬢とか、他の方々の気持ち任せではありませんか?」


「いいところに気がづいたわね! 実はそうなのよ!」


 腕組みをするメリーローズは納得するように、うんうんと頷く。


「高等学院入学式でゲームがスタートしたら、実際ゲームキャラであるわたくしやアルたんにどんな影響があるのか、始まってみないとわからないわ」


「それでは、作戦の立てようがないではないですか」


「でもね、同じように燃え盛る炎の中に放り込まれるのでも、心構えがあるのとないのとでは、違うと思わない?」


「どちらも焼け死にます」


「そうね、例えが悪かったわ。でも、言わんとすることはわかるでしょ? ゲームの強制力が働くのかどうか、働くとしたらどのくらいの影響があるのか、少しずつ感覚を確かめながら様子を見てみようと思うの。ミュリエルにどう対応するかを考えるのは、それからだわ」


「……そうですね」


 心配そうに俯くシルヴィアの顔を、メリーローズが両手で挟んで上を向かせる。


「大丈夫よ。シルヴィアもいるし、どうにかなるわ。……それより、あなたの方の準備はできてる? まだだったら、手伝うわよ」


「滅相もございません。大丈夫でございます」


 そう、うっかりメリーローズのことばかりにかまけていたが、実はシルヴィアも高等学院の授業聴講の許可をもらえたのだった。


「正式に単位をもらえるところまで、話を押し進められなくて、ごめんなさい」


 頭を下げるメリーローズに、シルヴィアの方が慌てた。


「頭をお上げください、お嬢様。授業を聞くことができるだけで、充分でございます」


 実家にいた頃は、女が勉強したり本を読んだりするなど、もってのほかと言われ続けたシルヴィアが、主人のお供とはいえローデイル王国最高学府で授業を受けることができるのである。


 初めてその話をランズダウン公爵から聞いたときは、涙を抑えることができなかった。


 学院の授業は政治経済、数学、自然科学、文学など多岐にわたる。


 魔法についての授業も行っているが、魔法を使える者はこの国では希少であるため、全員が魔法学を受けることはない。


 しかしシルヴィアはメリーローズが言うところの「陰陽道」を使えることから、そちらも受講できることになった。


 メリーローズは魔法はからっきしなので受講できないが、恐らくミュリエルは出席することになるだろう。


「まずは、わたくしが魔法学の授業でミュリエル嬢の人間性を観察して参ります」


「そうね、それがいいわ。お願いね」

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