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017-2

 シルヴィアは記憶を手繰(たぐ)り寄せて、フェリクス王子の姿を目蓋(まぶた)に映し出す。


 巻き毛の黒髪と黒い瞳が利発そうな、でも気弱そうな少年で、兄たちの陰に隠れるようにしていた。

 あれは去年、王宮での新年の挨拶の儀だったはずだ。


 と同時に自分が(フェリクス様がいらっしゃるなんて、お珍しい)という感想を持ったことと、隣でメリーローズが「うげ」と呟いたことも思い出す。


「昨年の新年の儀の際に、フェリクス様を見て『うげ』と仰いましたね。あれは、そういうことだったのですか?」


「…………相変わらず、記憶力がすごいわね」


 呆れながらもメリーローズはそうだと認めた。


 とりあえず、ここまでのことを踏まえ、これからの作戦を立案することにする。



★最善策

ミュリエルとフェリクスが結ばれるルート

ただし、ミュリエルとフェリクスともにそれぞれの人格があるため、ゲームでも難しかったルートを、実現できる可能性はかなり低い。



 メリーローズが大きめの紙に、作戦を書き出していた。


「そもそもミュリエルがフェリクス様を好きになるかどうかは、可能性のの低い賭けみたいなものだから」


「……そういえば、お嬢様は攻略対象の一人であるフェリクス様が、ミュリエル嬢と恋に落ちても問題ないのですか? 他の方々だと、あれほど嫌がられるのに」


「だってフェリクス様はアルたんの実の弟ですもの。さすがに実の兄弟で恋愛はちょっとね」


 常識人ぶって胸を張る主人に、「今更……」と呆れるシルヴィアだった。


「それより、作戦の続きよ」


 メリーローズが先ほどの「最善策」の次に、以下の作戦を続けて書く。



★次善策

ミュリエルが()()()()()()と恋に落ちる。


★妥協案

ミュリエルが()()()()()()()()()()の攻略対象と恋に落ちる。



 この「次善策」と「妥協案」の序列について、シルヴィアの中ではどちらでもよかったのだが、メリーローズは重要なポイントだと主張した。


「だって、高スペック男子である『攻略対象』は、できればアルたんのために取っておきたいもの! それから、私の小説はすべてアルたんが受なの! 総受なの! そのためにはアルたんが女と恋に落ちてはダメなのよ! それだけは妥協できないの!」


「はあ……」


 シルヴィアもこれまでにメリーローズからBLについて(意に反して)色々と教わってきたので、「受」「攻」「総受」「総攻」「リバーシブル」といった用語や「掛け算」の意味などを知っている。


「わたくしにとって、この世界の意義はアルたんが受であることなの。アルたんが受でなくては『レジェンダリー・ローズ』の世界が存在する意味はないわ!」


 アルフレッド受の前に、自分(シルヴィア)の存在をさくっと意味のないモノ扱いされたことを、敢えて意識の外に追いやりながら、質問した。


「アルフレッド様が『攻』ではいけないのですか? そもそも男性なので、本来は『攻』である方が自然だと思うのですが」


 その瞬間、メリーローズの体から深紅の炎のような「気」が渦巻いて発せられ、背筋に悪寒が走ったシルヴィアは思わず後退(あとずさ)る。

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