表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/78

017 公爵令嬢とメイドの作戦会議

「まず、ゲームのシナリオを説明するわ」



① 主に貴族の子弟が通う王立の高等学院に、平民でありながら「とある能力」のために、ミュリエル・ルーカンという少女が入学を許可されて入ってくる。



「その『とある能力』とは何でしょうか?」


「ごめーん、忘れちゃった。でも、国家的な何かを救済するとか、そういうものだったと思うわ」



② ミュリエルはそこで「攻略対象」たちと出会い、恋に落ちる。

*誰と恋に落ちるかで、ストーリーは変化する。

*攻略対象は、アルフレッド王子、メルヴィンの他にも三人ほどおり、それぞれと結ばれるルートの他、誰とも結ばれないルート(ゲーム上では失敗ルートとなる)、全員と結ばれるハーレムルートが存在する。



 ここでシルヴィアが(たま)らず声をあげた。


「なんですか、その『ハーレムルート』とは! 平民の娘が、王族や貴族を手玉にとるのですか?」


「あら、言ったでしょ? この世界は彼女のための世界なんだから、設定上は平民でも、実際は彼女こそ世界の中心、女王か女神のような存在なのよ」


「でも……」


 まだ納得しかねているシルヴィアに、メリーローズは説明を続ける。



③ もしミュリエルがアルフレッド王子のルートを選んだ場合、アルフレッドの婚約者であるメリーローズが障害となって立ちはだかる。

*メリーローズは公爵令嬢という身分を笠に着て、ミュリエルをいじめ倒し、最後には皆が見ている前でその悪事の数々を暴かれ、断罪され、婚約を破棄される。



「ではやはり、ヒロインに近づかないことが一番なのではありませんか?」


「そうなんだけど、場合によってはゲームが持つ『強制力』が働いて、彼女をいじめたくなってしまう可能性もあるのよ」


「なんということ……」


「それに、彼女がアルフレッド様に接近するなら、婚約者のわたくしが遠巻きに見ているだけなんて、不自然でしょう?」


 そう言うと、小さく身震いしてメリーローズは話を続けた。


「それから、気をつけなければいけないのは、それだけじゃないの」


「……というと?」



④ 実は攻略対象はもう一人いて、その人物はミュリエルを愛しすぎるために、彼女をいじめる人間を抹殺しようとする。



「なんですって?」


「いわゆる『かくれキャラ』ってやつでね。ミュリエルを不幸にする奴は許さない! っていう過激派で、わたくし(メリーローズ)なんか、彼に何度殺されたかわからないわ」


「まずいじゃないですか!」


 シルヴィアは青ざめて叫んだ。


「そ、その、かくれ……キャラ? は、誰だかわからないのですか?」


「ううん、何度もプレイしているから、もう正体はわかってるの」


「なんだ、それなら対処できるではありませんか。それで、誰なんですか? その危険人物は」


 メリーローズの眉尻がさがり、困ったような笑顔になる。


「…………フェリクス様よ」


 それを聞いた瞬間、シルヴィアの口が驚愕の余り大きく開き顎が外れかけた。


「まあ、シルヴィア。人形浄瑠璃のガブみたいに、見事な顎の落ちっぷり」


「なんですか、そのニンギョジョリルのガブって! ……というか、フェリクス様? アルフレッド様の弟君の?」


「そう」


 将来メリーローズがアルフレッド王子と結婚したら、義理の弟になる間柄だ。無事にゲーム期間を切り抜けたとしても、その間に目をつけられていたとしたら、結婚後に狙われる可能性もある。


「最悪……ですね」


「そうなのよ」


 シルヴィアは頭を抱えた。額や背中を冷たい汗が流れるのを感じる。


「どのルートをたどれば、そのフェリクス様の攻撃を(かわ)すことができるのでしょうか?」


「うーん……、ゲームの最難関ルートになるんだけど」


「一応、あるんですね?」


「フェリクス様とミュリエルが結ばれるルートなの」


「そうなれば大丈夫なんですね?」


 シルヴィアは胸をなでおろしかけたが、メリーローズが遠い目で呟く。


「いやーでも、それは最難関だから。……マジで」



 メリーローズの説明によると、フェリクス王子は小さい頃から体が弱く、最近までほとんど表舞台に姿を現すことがなかった。


 そのことがコンプレックスとなり卑屈な性格となるが、学院でミュリエルと知り合い、平民でありながら明るくふるまう彼女に惹かれていく。


 とはいえ身分差もあり、例え彼女と結ばれても周囲を説得することはできないだろうと、本人が早々に諦めてしまうので、フェリクスルートは難易度が高い。


 そして秘めた思いはその分だけ強く、そしてねじ曲がっていき、ついには彼女を傷つけるもの、傷つけようとするものを憎み、ミュリエルを傷つける者は許さないという思想に発展する。



「……とまあ、とにかく闇落ちのヤバキャラなのよ」


「一度だけお見掛けしたことがありますが、とてもそうは見えませんでした……」


「そこがミソなんだって」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ