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015-3

 モリスン書房でそんなやり取りをしていたことは知らず、メリーローズは創作意欲が湧きに湧いている。


 結局その日は学院を休んでしまったが、その分課題として挙げられていた、

・ペンネーム

・登場人物の名前

 については、サクサク決定した。


「主人公は『アルフレッド』のアルを取って『アルバート』。これでニューネームでも『アルたん』って呼べるわ!」


「そーですねー」


 興奮するメリーローズに対し、シルヴィアは遠い目で相槌を打つ。

 だいたい「アル」はともかく「たん」とは何だろう? よくわからない。


「それと身分も、第二王子ではなくて王太子にするわ。この辺りも言われる前にフェイクを入れたりして、私ったら気が利くこと」


「そーですねー」


「メルヴィンという名前については、アルたんの頭韻(とういん)に対し脚韻(きゃくいん)にして『エドウィン』。ここもわたくしのセンスが光るわよね」


「そーですねー」


「ん、もう! シルヴィアったら、心が込もってなーい」


「心を込めたら、失礼なことを言ってしまいそうなので……」


 チクリと返事をしてみれば、メリーローズは両手で頬を押さえながら嬉しそうに微笑む。


「あらやだ、気を遣ってくれたのね。ありがとう」


 嫌味がここまで通じないと、もう返事をする気力も起こらないシルヴィアであった。


「断っておきますが、お嬢様。本を出すのは一冊きり。わかりましたね?」


「ええー。やだやだ、もっと書きたいー!」


「いいえ! 一度きり、一冊きりとお約束ください!」


 シルヴィアの約束に文句を言いつつ、兎にも角にも、メリーローズは本能とやる気の(おもむ)くままに、書き溜めた分に修正を入れ、続きを書き足した。


 その原稿を読んだモリスン兄妹(の、特にセルマの方)も興奮して、「これはいい! ヒット間違いなし!」と叫んでキンバリーと握手をし……


 そして気づけばシルヴィアの心配をよそに、メリーローズの小説は初版があっという間に完売し、二刷、三刷と印刷を重ね、隠れたベストセラーとなっていた。


 一度きり、一冊きりというシルヴィアとの約束は、当然のごとく破られる。


 BL小説はシリーズ化し、続刊もまた重版がかけられた。


 公爵令嬢メリーローズ・ランズダウン、十五歳の秋のことであった。

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