011-2
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わたくしシルヴィアは、その後数日悩み続けた。
もし、アルフレッド様から感じた邪気が『BL』で、それがお嬢様からの影響だとすると、これは大変なことになった……。
第二王子殿下を同性愛者にしてしまったとしたら、お嬢様が処罰されるどころではない。一族郎党、処刑も考えられる。
いけない! そんなことには、させない!
一つだけ、気になることがある。
このところお嬢様は、ライティングデスクの一番上の引き出しに鍵をかけるようになった。
それまで鍵などかけていなかったのに、急にかけるようになるなんて怪しさの極みだが、それでも人目につかないように工夫しているのなら、少しくらい大目に見ようかと思っていた。
しかし、ことここに及んでは、そんな悠長なことは言っていられない。
何とかして、あの引き出しの中にあるであろう、『BL』の証拠を隠滅しなければ!
引き出しの鍵をどこに隠しているのかは、すぐにわかった。
鎖に通しネックレスのようにして、お嬢様が肌身離さず着けているのだ。
唯一外すのは風呂に入るときであるが、その場合私もお嬢様の湯あみを手伝うので、鍵を奪うことは出来ない。
一日一日、ジリジリした思いで、私は鍵を手に入れる機会を窺っていた。
お嬢様はお嬢様でかなり警戒しているらしく、わたくしは鍵に触れることさえ出来ない状況である。
そうこうするうちに、ひょんなことからチャンスが巡ってきた。
洗濯に回していたお嬢様の衣装を回収し、クローゼットにしまおうと部屋に入ろうとしたときのことだ。
ドアをノックする直前に、公爵様付きのメイドがお嬢様に声を掛け、「お呼びなのですぐに来るように」と伝えたのである。
わたくしは開いたドアの陰に隠れた形になり、お嬢様は私に気づかずそのまま慌てて部屋を出て行った。
残されたわたくしは、とりあえず衣装をしまうために部屋に入る。
そのまま真っ直ぐクローゼットに向かっていたが、例の引き出しが開け放たれたままになっているのを視界の端に認め、息を止めた。
震える手を抑え、大急ぎで衣装をハンガーにかけて形を整えると、デスクの前に戻る。
引き出しの中に、何枚もの紙があった。
お嬢様の筆跡の文字が見える。
そっとその紙を出してみると、文章の一節が目に飛び込んできた。
それはあろうことか、――メルヴィン様とアルフレッド殿下が口づけを交わしている場面――だったのだ!
カァ……ッと頭に血が上り、目の前が真っ赤に染まる。
考える前に体が行動を起こした。
引き出しを大きく開けて、中に入っていた紙を洗いざらい出し、それを抱えて部屋を出る。
自分用にあてがわれている部屋に飛び込み、書類入れ――どこの文具店にもある、ありきたりなものだ――に紙をすべて入れると、それを持って表に出た。




