011 公爵令嬢のメイド、強硬手段に出る
それ以降、シルヴィアは一層厳しく「BL」を取締った。
メリーローズの婚約者であるアルフレッド王子が会いに来ると、主人の体から邪気放出量が増えること、その場にメルヴィンが同席すると、更に邪気が増し増しになることに気がつく。
(わかる……。手に取るようにわかる……。今もまたお嬢様は『BL』とやらを妄想しているに違いない)
今日も今日とて、アルフレッド王子がランズダウン家を訪ねてきていた。
女王の病の回復に一筋の希望が見えたことで、王室全体に余裕が出来、以前よりも多い頻度で会いに来られるようになったのである。
「アルフレッド様、今日はわたくしが育てたバラの花をお茶に入れてみましたの。いかがかしら?」
愛らしく微笑んで見せるメリーローズだが、なぜか「バラの花」と言った瞬間、またしても彼女から邪気が多く放出されたのをシルヴィアは感知した。
(なぜだ?)
バラとBLにどんな相関性があるのか、シルヴィアにはわからない。
……が、何かしらの接点があるのは確実だ。
一方、話しかけられたアルフレッドは、そんなことに気づくはずもなく、婚約者である愛しい少女が差し出すお茶を啜り、嬉しそうに微笑む。
「なんていい香りだ。飲むだけで幸せな気分になるよ」
「そうなんだよ。最近メリーはバラを育てるのに凝っていてね」
兄のメルヴィンがアルフレッドに話しかけた。
「咲いたバラをドライフラワーにしたり、こうしてお茶に混ぜてみたり、そうそう、先日は花びらを湯舟に浮かべて入ったんだって?」
「ええ、お湯からバラの香りがして、とても素敵な湯あみでしたわ」
「そう、湯舟に……」
ランズダウン兄妹の会話に、笑顔で相槌を打ちかけたアルフレッドだったが、ふと「湯舟」という単語に反応してしまう。
湯舟……お風呂……入浴……誰が?……勿論メリーローズが……服を脱いで…………
「うわわわわあ!」
メリーローズのあられもない姿を妄想しかけてしまい、あわててそれを遮る。
「どうかなさいました? アルフレッド様」
「な、なんでもない……」
アルフレッドはメリーローズから目を逸らして答えた。
顔が真っ赤になっている。
きょとんとしたメリーローズの隣では、シルヴィアが戦慄していた。
今、何気ないはずの会話の途中で、アルフレッドから確かに「邪気」が出てきたのを感知したのだ。
(まさか……まさか、アルフレッド殿下も……『BL』愛好者?)




