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009-4

 それから数日後、ランズダウン公爵とメリーローズ様に改めて呼び出されることになる。


「シルヴィア・マコーリー。折り入って相談がある」


 メリーローズ様の父上であるランズダウン公爵は、王家に次ぐ高貴な地位にあるお方にも関わらず、(いち)メイドに過ぎない私に優しく話しかけてくださった。


「そなたも知っての通り、メリーローズは将来、第二王子であるアルフレッド様に嫁ぐことが決まっている。その際、娘が慣れぬ宮廷暮らしに直面することにご配慮いただき、我が家からメイドを一人つけても良いとお達しが出たのだ」


「…………はい」


 エプロンの前で重ねた手が汗ばみ、ギュッと握る。頭蓋骨のすぐ内側の血管がガンガンと音を立てて流れているような感覚に、眩暈を覚えた。

 話の流れから、公爵閣下が自分に今何を依頼されようとしているのか、予想できる。


 予想はできるのだが……そんな、まさか…………。


「娘の話によると、君はとても優秀な人間のようだね」


「そんなことは……」


 とっさに公爵様の話を否定してしまった。

 失礼だったかも知れない。

 しかし公爵様は鷹揚(おうよう)に笑って頷かれた。


「親バカかも知れないが、娘もまたそれなりに優秀であると思っている。その娘が私にたっての願いとして、こう言ってきたのだ。『結婚したらシルヴィアを私と共に王宮に連れて行って欲しい』と」


 メリーローズ様へ視線を動かすと、にっこりと笑顔を返してくださる。


「どうだね。勿論、嫌なら断ってくれてもいい。でもできれば、メリーローズがアルフレッド殿下の妃となった暁には、メリーローズについて王城に行ってはくれまいか」


 私は実家で暮らしていた間、自分という存在をずっと否定されて生きてきた。

 女に学問は必要ないと、勉強する女は可愛げがないと、女は可愛いのが一番だと、そういう価値観の下で生きてきた。

 時に「私は生まれてくるべきではなかったのでは?」とさえ、思った。


 それがランズダウン家に来てから、世の中にはまったく違う考え方があるのだと知ることができたのだ。


 女だって本を読んでいいし、勉強に精を出していいし、修めた知識を活かして生きてもいいのだと、教えていただいた。

 そのうえ、こうしてこれからの道筋を示してくださる。


 あふれる涙を必死で押さえ、お腹に力を入れて声が震えるのを我慢した。


「ありがとうございます! わたくしにとって、これほど名誉なことはございません。ご期待にお応えできるかどうかはわかりませんが、全身全霊でメリーローズ様をお支えし、ひいては国家のために尽くしたいと存じます!」


 公爵様は再び「ははは……」とゆったり笑い、仰った。


「そんなに肩肘張らなくていい。君のままに力を発揮してもらえれば、きっとメリーローズのためになるだろうからね」


 そこまで、ご信頼いただけているとは……!


「ありがたき幸せにございます」


 心からの思いであった。

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