066 公爵令嬢の婚約者、溺れる
ヨボヨボ歩いていても、ちゃんと湖には到着する。
シルヴィアとメルヴィンがやって来たときには、メリーローズとアルフレッドの二人はとうに着いていて、ボートを漕ぎだしているところであった。
それを見てメルヴィンが慌てだす。
「む、いかんぞ。慣れないのにボートに乗るのは、悪手だ。どうにかして止められないだろうか?」
「なぜダメなのですか?」
「普通ボートは向かい合って乗るものだ。キスするつもりなら、あの狭くてグラグラ揺れるボートの中で、場所を移動しなければいけない」
「なるほど、シチュエーションとして無理が生じるわけですね」
「ああ。それでも敢行しようとすれば、最悪の場合ボートが転覆して、湖に投げ出される可能性がある」
意気消沈のあまり頭がボンヤリしていたシルヴィアだったが、それを聞いて意識が覚醒した。
「いけない! お嬢様は水に入ったことがありません! もし湖に落ちたら、溺れてしまいます!」
「アルフレッドは泳げたはずだけど、もしメリーを助けようとしたら、一緒に溺れるかもしれない!」
こっそり隠れて見ていたはずの二人だが、命に係わる問題の発生により、揃って木の陰から飛び出す。
「おい! アルフレッド! メリー!」
「お嬢様! アルフレッド様! 今すぐ岸にお戻りくださいませ!」
大声で叫ぶ二人に、メリーローズが気がついた。
「あら? お兄様とシルヴィアだわ。どうしたのかしら?」
焦る二人と対照的に、暢気に手を振り返す。
「お兄様ー! シルヴィアー! やっほー!」
一方、二人きりにしてくれる計画だったのに、なぜか姿を現して手を振ってくるメルヴィンたちを、アルフレッドは不振に思う。
(おかしいな。なぜ二人だけにしてくれないんだ? はっ! まさか僕がキス以上のことをするんじゃないかと、心配になったんだろうか。そんなこと出来るはずないじゃないか! キスだって、どのタイミングでどうすれば、ロマンティックな状況に持ち込めるのか、よくわかっていないのに……)
そんなアルフレッドをよそに、メリーローズはメリーローズでお得意の腐思考を展開していた。
(なぜ急にお兄様たちが顔を出したのかしら? ……はっ! もしやわたくしがアルフレッド様と二人で出かけるのを見て、デートと勘違いして嫉妬のあまり尾けてきたのね)
いや、妹が婚約者と二人で出かけて、なぜ兄が嫉妬しなければいけないのか?
腐った女の考えは、常識を軽く飛び越えていく。
メリーローズはアルフレッドが握っているオールを奪おうと、ボートの上を移動した。
「な、何をするんだ?」
「え? だって二人が呼んでいるんですもの。戻らなくちゃ」
(戻って、早くお兄様にアルたんをお返ししなくっちゃ。きゃっ)




