064 公爵令嬢の知らないところで計画が進む
* * *
以前シルヴィアはメリーローズに聞いたことがあった。
「なぜアルフレッド様を『受』にされたいのですか? アルフレッド様のことが、あまりお好きではないのでしょうか?」
「ええっ? 好きじゃないなんて、そんなこと絶対ないわ! むしろ好きよ。一番好き!」
(そう、なのか……)
シルヴィアはあまり納得できないまま、メリーローズの答えを一応尊重する。
男なのに女のように扱われるというのは、アルフレッド本人にとっては屈辱なのではないか?
彼を「受」として扱うということは、嫌いだからではないか?
そんな風に予想していたシルヴィアとしては意外だった。
「ん、もう。違うわよう。むしろね、大好きなキャラだから、皆に愛されて欲しいの。『攻』は愛する方で、『受』は愛される方でしょ? 大好きなアルたんには、素敵なダーリンたちから、いっぱい愛されて欲しいの!」
よくわかりにくい心理であったが、一応メリーローズとしては「アルたんが一番大好き」ということでいいのだろう。
「あ、それからね、二番目に好きなのはお兄様よ。やっぱりアルたんのダーリンの、第一候補ですもの。一番王道のカップリングですからね。……ぐふふ」
* * *
「アルフレッド殿下」
少し態度を改めて、呼びかける。
「あ、な、なんだい?」
「かつてメリーローズ様はこう仰っていました。『アルフレッド様が一番好き』…………と」
それを聞いてメルヴィンがヒュウ、と口笛を吹き、アルフレッドが真っ赤になって照れた。
「そ……そうなんだ。メリーローズは僕のことを……」
とろけそうに嬉しげな笑みを浮かべるアルフレッドに、複雑な表情のメルヴィンが言う。
「兄としては安心するやら、寂しいやら、だな。昔は『おにーたまが一番しゅきー』なんて、言ってくれていたんだけどね」
「勿論、メルヴィン様のことも大好きだと仰っておりましたわ。アルフレッド様とは別の意味だけど、とのことでした」
「へえ、そうか!」
今彼らの中で、シルヴィアの言葉は「メリーローズはアルフレッドに恋をしている」、「メルヴィンのことは兄として慕っている」と都合よく変換されているだろう。
実際には「アルたん大好き! 『受』として!」、「お兄様大好き! 『攻』として!」という意味なのだが、そんなことを解説してあげる必要はない。
いつまでもニヨニヨと微笑んでいるアルフレッドに、再び活を入れる。
「そういうわけですので、アルフレッド様。どうか今までより少しだけ、大人のおつき合いをお願い申し上げます」
「お、大人……の……」
モジモジと恥ずかしそうなアルフレッドに、メルヴィンが耳元で囁いた。
「とりあえず、キスはまだ唇を触れあうだけにしてくれよ。舌を入れるのは、まだ早いからな」
「そんな! し、舌なんて入れないから!」
メルヴィンに揶揄われ、顔を赤らめながら抗議するアルフレッドの頭から、メリーローズ並みの邪気がしゅっぽっぽと出ているのを見て、シルヴィアは考える。
(なるほど。邪気が出るのは、何もBLに限ったことではないのだな)
「本来なら、メイドとしてこんなことをお頼みするのは、非常識でございましょう。しかし、メリーローズ様はアルフレッド様を恋い慕っており、アルフレッド様もまたメリーローズ様を大事に思ってくださっている、と判断してお願いしているのでございます」
真剣な顔で訴えるシルヴィアを見て、アルフレッドも真面目な表情で答えた。
「わかった。君の言う通り、僕もメリーローズをとても好きだし、大事に思っている。彼女を傷つけない常識的な範囲で、その……スキンシップを試みてみるよ」
「ありがとうございます」




