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062 公爵令嬢、証拠を隠す

「い、一体なぜBL本の存在を、学長が知ってしまったの?」


「この学院の学生がBL本を自宅に持って帰り、それが父親に見つかって、言い訳として『学友に借りた』と証言したため、その父親が学院に乗り込んだそうです」


「……なんてこと」


 メリーローズは力を失ったように、ドサリとベッドにへたり込んだ。


「ええ、まったく。家に持ち帰ったりさえしなければ、こんなことにはならなかったでしょうに……」


「家に持ち帰りたいくらい、いつも読んでいたかったってことかしら? わたくしの小説がそれだけ魅力的だったということね。うふ」


「……ポジティブですね」


 確かにその通りなのだろうと思いつつも、今この状況下で、まずそう考える主人に、容赦なく呆れた視線を投げつける。


「うふ、褒められちゃった」


 更に続いた台詞に、がっくりと力を抜かれながらも、シルヴィアは考えた。


(まあ、泣いて暴れられたり、恐怖で動けなくなったりするより、マシか)


 両頬に手を当てながら、モジモジしているメリーローズの手を引いて、立たせる。


「状況をご理解いただけたなら、ほら、サクサク動いてください。ここから少し離れますが、ストーンバラの別荘に荷物を持って行きます。あそこならお嬢様専用のお部屋もありますし、クローゼットに鍵をかけられたはず」


「ねえ、なぜ原稿もしまわなきゃいけないの? 続きが書けなくて、締切に間に合わないわ」


「締切の話はなくなります。キンバリーたちも、自分たちの在庫を隠す方を優先しますし、新刊発行も、一旦ストップするでしょう」




 シルヴィアが言った通り、キンバリーから「新刊の発行は無期限の延期になった」と連絡がきた。


 手紙には、BL本が学長の手に渡ったいきさつと、現在の自分たちの状況が記されており、「メリーローズが持っている本やファンレター、最新の原稿にいたるまで、安全な場所に隠すように」と指示があった。


 実のところ、その手紙を受け取ったときには荷物はすでにまとめられ、別荘に移す準備は完了している。


 明日からの豊穣祭の休日を利用して、別荘に遊びに行くという理由をつけていて、自然な流れでブツを隠すことができそうだ。

 問題は……




「やあ、メリー。すごい荷物だね」


「僕まで誘ってもらっちゃって、よかったのかなあ?」


「え、ええ。勿論ですわ」


 メリーローズの別荘行きの話を聞いたメルヴィンが「自分も行く」と言い出し、アルフレッドまで誘ってしまったことである。


「メルヴィン様、年頃の貴族令嬢なら、たとえ一泊二日の旅でも、準備するものがたくさん必要なのです。それが今回は三泊四日なのですから、荷物も嵩もうというもの」


 シルヴィアは大荷物を持ってきた理由を、普段はメリーローズがほとんど気にしていない「身だしなみ」にあると主張した。

 とんだ大噓つきだ。


 更に声を潜め、メルヴィンだけに聞こえるよう、付け加える。


「メルヴィン様が、お嬢様のご婚約者であるアルフレッド様をお誘いしたので、私的な旅行とはいえ、それなりの衣装を用意しなければいけなくなりましたから」


 シルヴィア、汚い。

 まるでメルヴィンが元凶であるかのような言い方、汚い。

 しかし人の良いメルヴィンはまったく、気にせず笑った。


「それは申し訳ない。なるほど、メリーはアルフレッドの前ではいつもおしゃれをしたいということか。うんうん、女心だね」


 上機嫌なメルヴィンに、騙したシルヴィアの良心が返って痛む。

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