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061 公爵令嬢の包囲網

 学院を抜け出したヘザーは、姉の仕事部屋に行ってみるが不在であった。


 次いでモリスン書房に向かう。

 折よく、モリスン兄妹と一緒にいる姉のキンバリーを見つけた。


「お姉様、大変です」


「どうしたのよお、血相変えちゃって。可愛い顔が台無しよ」


 事態を知らない姉のキンバリーが、笑って妹を茶化す。


「そんな、笑っている場合ではありません。丁度いいので、モリスンさんたちも聞いてください」


 その声にただならぬ気配を感じ、ウォルターが「奥へ移動しよう」と提案した。



「何ですって? BL本の存在がバレた?」


「そうなんです」


 キンバリーは仰天して大声をあげたが、モリスン兄妹は事態の深刻さに声を出すこともできなかった。


「間者の話だと、学長は本を読んだことがある者をあぶりだそうとしているようです」


「……今すぐに当局に訴える様子はないのね?」


 セルマが恐る恐る聞いてくる。


「はい。まずは学内で処理しようとしているみたいです」


 ヘザーの言葉に、大人三人はとりあえず安堵した。


「なら、私たちも今のうちに動いておかなくちゃね。セルマ、ウォルター、この店にあるだけのBL本をまとめてちょうだい。私は貸倉庫に連絡をとるわ」


 キンバリーの話では、貸倉庫は王都内に一軒と、地方にも契約しているところがあるということだった。


「万一のことを考えて、王都にあるBL本を全部、地方に移動させた方がいいわね」


「お姉様、友達が本を捨てたくないと言っています。他のお客さんたちも、同様のことを訴えてくる可能性があるんですけど、それらを預かってもらえるでしょうか?」


「そうね。……地方の貸倉庫を、もう一軒探すわ」


「助かります!」


「あなたには、BL本の販売にかなり手を貸してもらったからね。当然よ」


 それだけ聞くと、ヘザーは学院に戻っていった。



 その後ろ姿を見ながら、いつもは寡黙なウォルターが口を開く。


「ねえ、僕はBL本を、ただ人気だから、うちが儲かったからというだけでなく、とても大切なものに思えてきているんだ」


「へえ?」


 BL本の出版に当たって、原稿を読んだセルマは早々に賛成したが、ウォルターは最後まで反対していた。


「兄さん、ずいぶん考えが変わったのねえ?」


 セルマが揶揄(からか)うと、はにかみながら言葉を続ける。


「普段小説を読んだりしなさそうな若い女の子たちが、あんなに幸せそうな顔をして、本を買い求めに来てくれるのを見ていてね、気が変わったのさ」


「そうねえ……」


 キンバリーもしみじみと頷いた。


「本の面白さ、読書の楽しさをBL本で知ったあの子たちが、これからももっと色々な本を読んでくれたら、私たちとしては本望よね」

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