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060 公爵令嬢の小説ファン、行動を起こす

 生徒会室を出たヘザーは、ミュリエル、エルシー、アデレイドを、生徒会室のある学生棟の裏手に連れて行くと、神妙な顔で切り出した。


「例の本が、保護者の一人と学長に見つかりました」


「ええっ!」


 大袈裟に声をあげたのはアデレイドだ。


「あれは、上の人には見つかったらいけないものでしょう? ……というか、えーっと皆さんもアレを読んでいるということですか?」


「『ローザリウム王国物語』ですね。その、わたくしも愛読しています」


 モジモジとエルシーがカミングアウトする。


「そうなのね! わたくしもあのシリーズ、だあい好き! でも、ミュリエルさんは意外ですねえ」


「そ、そうでしょうか……」


 ミュリエルも恥じらいながら認めた。


「私は、その、同性愛を扱ってはいても、素晴らしい小説だと思っています」


「話がわかりますね!」


 キャッキャとはしゃぐアデレイドを、ヘザーが制した。


「今はここで盛り上がっている場合ではありません。これから起こることを想定すると、あの本をどこかに処理しなければいけなくなるかも知れないのです」


「処理? 捨てるってこと? そんなあ……」


 大切な愛読書を捨てなければいけないと聞いて、早くも泣きそうな顔のアデレイドだ。


「わたくしだって、あれらの本を捨てるのは忍びないです。しかし万が一『同性愛の小説本』を所持していたとバレたら、わたしくしたち皆、逮捕されてしまいます」


「逮捕……」


「それだけではありません。証拠があるのですから、裁判にかけられれば有罪は確実」


「有罪……」


 スカートをぎゅっと握りしめて、アデレイドが呟く。


「有罪は困ります。それでなくても、家では『できそこない娘』と思われているのに……」


「できそこないだなんて、そんな!」


 ミュリエルの声に、アデレイドは首を横に振った。


「でも、そうなんです。わたくしは頭も悪くてぼーっとしていて、父からはよく、『アデレイドはメリーローズ様みたいになれないんだなあ』って溜め息をつかれています」


「まあ……」


「貴族令嬢の(かがみ)と言われるメリーローズ様みたいになるようにと言われて取り巻きにはなったものの、全然メリーローズ様みたいにはなれなくて、わたくしなんて、ダメなんです」


「そんなこと、ないですわ!」


 いつもは控えめなエルシーが憤慨(ふんがい)する。


「アデレイド様には、アデレイド様のいいところがあります! 素直だし、優しいし、可愛らしいし……ちっともダメな方ではありません!」


「私もそう思います!」


「エルシーさん、ミュリエルさん。……ありがとう、わたくし、嬉しいです!」


 そこにヘザーが手をパン! パン! と叩いて、皆の気をひく。


「皆さん、女同士の美しい友情を育むのもよろしいですが、今は一刻を争います!」


「そうでした」


「わたくしはまず、今からすぐ姉のところに行きます。姉の出版社と、モリスン書房にあるBL小説を、どこかに隠さなければいけません」


「どこかって、どこですか?」


 ミュリエルが不安そうに尋ねた。


「それを、姉と相談するのです。元々出版社の蔵書は、どこかの倉庫を借りてそこに保管しているはずなので、そこに皆さんの本を一緒に隠せないか、聞いてみます」


「じゃあ、捨てなくてもいいのですね?」


 エルシーがうれしそうに叫ぶ。


「でも、姉に聞いてみないとわかりません。まずは相談してみないことには……」


「……そうですね」


 学生棟の奥には、ヘザーだけの秘密の抜け穴がある。

 そこに向かいながら、三人に言った。


「皆さん、自分の手持ちのBL本を、どこかにまとめられるようにしてください。ミュリエル、今日中には戻るので、私の不在をごまかしておいて欲しいのだけど、いい?」


「勿論よ」


 返事を聞くと、植木をくぐって姿を消す。

 残された三人は無言で目配せすると、寮の部屋に急いで戻った。

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